|#02 『もう1人お乗せできます!』

 

 ヨーロッパのとある古い町でのお話です。

 うら若い女性が1人で古城を改装したホテルに泊まっておりました。
 夜更け、眠れずにいた彼女は、馬車が敷地内の道を走ってくる音を聞きつけてベッドから抜け出しました。そして、窓辺に行き、外を眺めてみました。

 すると、古めかしい馬車が玄関に続くドライブウェイをごとごとと走ってくるのが目に入りました。こんな夜更けだというのに馬車には何人もの人が乗っていました。

「シークレット・パーティーでもやるのかしら?」

 そんなことを思いながらなおも眺めていると、馬車は彼女の部屋の下で止まり、馭者(ぎょしゃ)が顔を上げてこう言ったのでした。

「もう1人、お乗せできますぞ!」

 しかし、彼女は返事もせず、ベッドにもぐり込んでしまいました。馭者の顔が髑髏みたいで恐かったのです。
 翌朝、彼女は夕べ見たものは夢だったのだろうと思うことにしました。念のためホテルの従業員に尋ねてみたのですが、夜中にやって来た者など1人もおらず、まして馬車など敷地に入れるはずはないと言われたからです。

 その日の午後、彼女は町のデパートで買い物をしていました。歩き疲れたのでエレベーターで1階に乗ろうと、そのほうに向かっていくと、ちょうど扉が開いていました。エレベーターボーイも彼女のことに気づき、急ぐよう身振りで示すとともに、こう言いました。

「もう1人お乗せできます」

 これを聞いた彼女はゾッとして足を止めました。エレベーターボーイの顔が昨夜の馭者と同じだったからです。

「私はけっこうです」彼女は後ずさりしながら言いました。「階段で下りますから」

「さようですか」

 エレベーターボーイは薄笑いを浮かべたかと思うと、音もなく扉を閉めました。

 その次の瞬間、ガタガタという音が中から響いてきました。続いて悲鳴も聞こえましたが、それも一瞬のことで、すぐに下の方からドシャーンという大きな音が地響きを伴って伝わってきました。

 エレベーターが落下したのでした。
 乗客は全員死んだそうですが、その中にエレベーターボーイの姿はなかったそうです。

 高橋宣勝さんの『イギリスに伝わる怖い話』によると、この種の話はイギリスではエレベーターが商業ビルにつけられるようになった頃からあるそうで、古城にやってくる馬車は棺桶を運ぶ霊柩馬車だそうです。

 旅行中はうっかり死神の馬車やあの世行きのエレベーターに乗ってしまわないよう、くれぐれも注意してください。