『堂々たる白タク配車アプリ』と評判の<br />「CREW」を巡る論争が拓く未来<br /> |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

『堂々たる白タク配車アプリ』と評判の
「CREW」を巡る論争が拓く未来

山本一郎&北澤恭 連載「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」第1回

 日本の事例では、この「CREW」ではありませんが、中国国内で営業されている白タク配車マッチングアプリで登場した中国人運転の車両が死亡事故を起こした際に、大手損保A社は補償の対象外として支払わず、裁判にまで発展しました。

 結論としては、保険金や給付金は被害者に支払われない形で和解が成立したようですが、似たような事例がそれなりに出始め、これから問題になるのではないか、とのことでした。

(註:この問題は、中国人ドライバーがフィリピンなど第三国発行の国際免許証を使って日本で運転し、業として中国人旅行者を乗せたものの、この国際免許証が事故後に偽造であることが分かり、保険金・給付金支払いの対象とはならないと保険会社から判断されたようです)

 「CREW」のような野良配車アプリは国内に拠点を置き適法にやろうとする限り、もはや制度的にほぼビジネスにならないのではないか、と思う部分は強くあります。

 上記「謝礼」の件にしても、マッチングアプリ側は謝礼を仲介するどころか謝礼を斡旋するだけで業法違反になりますので、「謝礼」が授受される段階で単純に違法アプリまたは違法行為幇助アプリになってしまいます。

 仮にCREW社が「謝礼が授受されていることを知らなかった」としても(実際に知らないと思いますが)、本当にこれらの配車アプリが流行し、たくさんのマッチングが行われ、多くの謝礼が飛び交うようになれば、何らかの摘発に遭う条件は揃います。謝礼をエスクロー業務で担保できないのだとすると、運転手のデータをいかに蓄積してもアプリ側は収益に預かれないことになりますし、マッチングするごとの対価を得ることも違法となると「このビジネス、いったいどこで儲けるの?」という話になってしまうわけです。

 しかしながら、CREW社に限らず白タク界隈はけしからんと言ったところで、インバウンドでやってくる訪日観光客はかなり頻繁に白タクを活用しています。「日本の法律に違反しているのだから、『CREW』のような配車アプリはいかんのだ」とタクシー業界が言い募ったところで、インバウンドは「CREW」どころではない白タク営業が横行している、というのが実際です。

 むしろ、英語もまともに通じないうえに高額である日本のタクシーは積極的に敬遠される傾向にあり、中国国内で白タク配車を行うアプリは、日本向け利用者向けの専用タブがあり、中国国内にあるサーバでマッチングされ、中国企業の発行する電子マネーで決済が終わっていて、日本では単に待ち合わせ場所にやってきた車に乗って移動するだけ、というのが実態になってしまっています。

 「CREW」の挑戦を擁護するわけではないのですが、日本人が日本の法律を守って事業を展開しようとすると違法紛いの脱法アプリになってしまうのに、海外にサーバーが立ち海外で取引が完結してしまっている白タク配車は完全に野放しで、事故が起きたときにはじめて「あ、白タクだったんすね」と分かるような惨状では、いかにタクシー業法による規制を正当化しようにも無理筋なんじゃないのとすら思います。

 海外の白タク行為を取り締まることができないのに、日本で適法にやろうとする事業者だけ日本の法律が厳格に適用されて取り締まられるということでは、イノベーションは起きないよなあとも思うわけです。

 一方で、CREW社の利用規約や業法対応を見ていると、サービス運用することありきで、「私たちはマッチングしているだけです」という責任逃れの方法論に終始しているのは気になります。

 つまり、CREW社でマッチングされて配車された場合、ドライバーはCREW社から何の法的庇護も保険適用の保証もされないまま、すべての事故リスクをドライバーが負うことになります。

 それでいて、(表向き)ドライバーは乗り手から謝礼はもらってはいけないとなれば、何のためにドライバーとして頑張るのかという話になりますよね

 そして、これで生計が立てられるほど配車送迎で頑張れば、これは業として『白タクでの営業』が完全に成り立ってしまうので、CREW社関係なく道路輸送法違反となり逮捕されるのはドライバーです。

 これらがきちんと業として行われ、売上が立って利益が出ているならば、納税しなければなりませんが、この納税のための手配まで「CREW」がやってくれるわけではありません。悩ましいところです。

 いままさにプラットフォーム事業者に対する規制論議が盛んになってきていますが、単に日本人の個人情報や健康情報、取引に関するデータが海外に流出するよという話だけでなく、海外でマッチングされ金銭の授受が行われて日本国内で行われる違法サービスもまた、完全にやり放題になっている現実はあります。

 いずれ、タクシーだけでなく京都・ニセコなどでの不動産取引や貸金業、日本での雇用でも自在に起きる可能性のある問題でしょう。

 これからはデータ資本主義だ、日本には人工知能の技術者が40万人足りないと騒ぐ前に、我が国の中のビジネスが適切に行えるよう規制を再整備することのほうが優先課題なのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

 取材したのに返答が一切無かったCREW社にはムカつきますが、やってることは革新的だし面白いと思います。上手く生き延びていって良い仕事をしてほしいと願っています。

KEYWORDS:

オススメ記事