「殺したいほど憎みます」ジャニー喜多川、最大の危機と内助の功
最も多くのコンサートをプロデュースした・日本のエンタメ王が逝く
■「ジャニーは人の皮をかぶった獣。殺したいほど憎みます」
しかし、その10年後、北は肝臓ガンで他界する(享年63)。30歳を迎えた昭和54年に覚醒剤で捕まったあとも、風邪薬のオーバードーズにハマるなどして、体はボロボロだったのだ。その死を伝えた女性週刊誌には「苦しみ続けた胸の内を告白『ジャニーを殺したほど憎い…』」という見出しが踊った。が、これは彼の発言ではない。『光GENJIへ』を読んだ最初の妻が「ジャニーは人の皮をかぶった獣。殺したいほど憎みます」と言って泣いたのだという。
もっとも、そこには彼女の嫉妬もまじっていただろう。なにしろ、自分の前に濃密な関係だったことを、かつての夫が告白したのだ。そう、ジャニーは女を嫉妬させる男でもあった。美少年の魅力を知り、ひきだすことにおいてはどんな女性もかなわないのだから。
実際、北もまたジャニーに対してはこんな言葉を遺している。死の前日、ブログに綴られたものだ。
「そして最後にどうしても言わしていただけるなら ジャニーさん メリーさん ありがとうございました 感謝しています」
ジャニーに見いだされたからこそ、アイドルにもなれたし、波瀾はあれど充実した人生を送れたという思いだったのだろう。かつての「関係」にしても、けっして一方的なものではなかった。
「おれが外で若い女の子と口をきいたりするとジャニーさんはいつも夜嫉妬めいた口調で責めてくる。それと同じようにおれもジャニーさんが他のタレントと親しい口調で話しているのを見てしまうと嫉妬めいた感情が胸に渦巻く」(『光GENJIへ』)
そして、深く関わったからこそ見えてくるこんな分析も。
「というよりもジャニーさん自身がホモの男を嫌っていたのだ。同性愛者というのは、ホモの性癖のある男を求める場合と、ホモの性癖のある男には見向きもしない二つの傾向がある。ジャニー喜多川さんは後者、つまり元気で少年っぽい10代の男の子が大好きだった」」(『光GENJIへ』)
この分析が当たっているとすれば、ジャニーも常に嫉妬にかられることになる。美少年が好きになるのは、自分が絶対になれない「女性」という存在だからだ。特に、成人して結婚してしまうときには絶望的な淋しさにさいなまれるのではないか。
ただ、ジャニーは中期以降、CDデビューさせたアイドルとは距離を置き、もっぱら「ジャニーズJr.のマネージャー」としての役割に徹するようになっていく。これは単に、若い男の子が好きというだけではなく、嫉妬や淋しさをなるべく味わわずに、まだ無邪気な少年たちと一緒に夢を追っていたいという方向にシフトしていったということかもしれない。
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『平成の死: 追悼は生きる糧』

鈴木涼美さん(作家・社会学者)推薦!
世界で唯一の「死で読み解く平成史」であり、
「平成に亡くなった著名人への追悼を生きる糧にした奇書」である。
「この本を手にとったあなたは、人一倍、死に関心があるはずだ。そんな本を作った自分は、なおさらである。ではなぜ、死に関心があるかといえば、自分の場合はまず、死によって見えてくるものがあるということが大きい。たとえば、人は誰かの死によって時代を感じる。有名人であれ、身近な人であれ、その死から世の中や自分自身のうつろいを見てとるわけだ。
これが誰かの誕生だとそうもいかない。人が知ることができる誕生はせいぜい、皇族のような超有名人やごく身近な人の子供に限られるからだ。また、そういう人たちがこれから何をなすかもわからない。それよりは、すでに何かをなした人の死のほうが、より多くの時代の風景を見せてくれるのである。
したがって、平成という時代を見たいなら、その時代の死を見つめればいい、と考えた。大活躍した有名人だったり、大騒ぎになった事件だったり。その死を振り返ることで、平成という時代が何だったのか、その本質が浮き彫りにできるはずなのだ。
そして、もうひとつ、死そのものを知りたいというのもある。死が怖かったり、逆に憧れたりするのも、死がよくわからないからでもあるだろう。ただ、人は自分の死を認識することはできず、誰かの死から想像するしかない。それが死を学ぶということだ。
さらにいえば、誰かの死を思うことは自分の生き方をも変える。その人の分まで生きようと決意したり、自分も早く逝きたくなってしまったり、その病気や災害の実態に接して予防策を考えたり。いずれにせよ、死を意識することで、覚悟や準備ができる。死は生のゴールでもあるから、自分が本当はどう生きたいのかという発見にもつながるだろう。それはかけがえのない「糧」ともなるにちがいない。
また、死を思うことで死者との「再会」もできる。在りし日が懐かしく甦ったり、新たな魅力を発見したり。死は終わりではなく、思うことで死者も生き続ける。この本は、そんな愉しさにもあふれているはずだ。それをぜひ、ともに味わってほしい。
死とは何か、平成とは何だったのか。そして、自分とは――。それを探るための旅が、ここから始まる。」(「はじめに」より抜粋)