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7月はもう一つのお正月?――七夕の隠された意味
~7月の行事を学び直す~

■「季節行事」の意味と由来を知る・7月編

■七夕は棚機か棚幡か神の名か

 

 そもそも「七夕」を「たなばた」と読むのも謎だ。

 「七夕」は7月7日の夜を表す言葉で、乞巧奠の習俗とともに日本に伝えられたと思われる。だとするならば、「七夕」は「しちせき」と読まれるのが普通だ。少なくとも「七」「夕」という漢字から「たな」「ばた」という読みは出てこない。

 「たなばた」という読みの由来にはいくつかの説がある。

 国文学者で民俗学者でもあった折口信夫は、水辺に作った機屋(はたや、布を織るための機を供えた小屋)に娘が籠もって水神をもてなす棚機津姫(たなはたつひめ)の伝承が起源だとしたが、その根拠を示しておらず憶測の域を出ない。

 『古事記』に登場する弟棚機(おとたなばた)という機織りの女神、もしくは『古語拾遺』にある天照大神に献じる衣を織った天棚機姫神(あめのたなばたつひめのかみ)に由来するという説もある。

 しかし、いずれも神話の中に名前が登場するだけの存在で、行事の名前になるほどの信仰があったとは思われない。

 仏教民俗学者の五来重はお盆の時に設える盆棚に立てる幡(はた)のこと、すなわち棚幡のことだと主張した。この説に従うと『万葉集』ですでに「たなばた」という言葉が使われていたことが説明しづらい。

 ――と、どの説も決定打にはなっていない。

 ただ、笹竹を立てることについては、お盆が関わっているようだ。

 というのは、お盆の時期には柱状のものを立てる習俗があったからだ。

 笹竹を立てるということでいえば、先述の盆棚の四方に笹竹を立てる地域が多い。また、柱松といって柴草で高い柱を作り、これに火をつける行事も七夕頃に行われる。

 お盆と七夕は結びつかないと思われる読者も多いかと思うが、7月7日からお盆が始まるとしていた地域は多く、「七日盆」という言葉もある。

(8月にお盆を行っている地域も多いが、これは月遅れの行事で、本来お盆は7月の行事である)

 なぜ7日がお盆の始まりかというと、7月が「もう一つのお正月」だからなのだ。

玄界灘に浮かぶ大島に鎮座する宗像大社中津宮には、全国的にもめずらしい織女神社・牽牛神社があり「七夕伝説発祥の地」とも呼ばれている。

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渋谷 申博

しぶや のぶひろ

日本宗教史研究家

1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業。
神道・仏教など日本の宗教史に関わる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地・聖地鉄道などのフィールドワークを続けている。
著書は『聖地鉄道めぐり』、『秘境神社めぐり』、『歴史さんぽ 東京の神社・お寺めぐり』、『一生に一度は参拝したい全国の神社』、『全国 天皇家ゆかりの神社・お寺めぐり』(G.B.)、『神社に秘められた日本書紀の謎』(宝島社)、『諸国神社 一宮・二宮・三宮』(山川出版社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 仏教』(日本文芸社)ほか多数。

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