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樹木希林、大杉蓮、西部邁、さくらももこ……平成の終わりに示されたさまざまな死生観

昭和から平成へと移りゆく「時代」の風景が見えてくる「平成の死」を振り返る。

■昭和、平成。時代をまたいで主役であり続けた“古くて新しい”落語家

 桂歌丸の最期も、記憶に残る。もともと頑健な体質ではなかったが、平成21年に肺気腫を患ってからは病魔と闘いながらの噺家活動となった。最後は酸素チューブまでつけて高座にあがり、81年の生涯を生き抜いた。

 その晩年は、新たな地平も切り拓いた。病気や入院、不健康な痩身といった負の要素を笑いに変え、お茶の間に持ち込んだことだ。高齢化が進めば、当然、不健康な老人も増える。そういう世の中にあって、歌丸の姿はヒントや希望にもなったのではないか。

 また、高齢化には介護の問題もつきまとう。朝丘雪路が82歳で亡くなったとき、夫の津川雅彦は、

「先に死んでくれたことも含めて感謝だらけです」

 と、ホッとした表情を見せた。朝丘が重度のアルツハイマー病(死因もこれだった)で、自分のあとに残していくのはしのびなかったのだ。津川は妻の死から約百日後、心不全であとを追うことになる(享年78)。「お別れの会」は夫婦合同のかたちで営まれ、死後もおしどりぶりを示した。

 思えば、津川の兄・長門裕之も妻・南田洋子が認知症になり、老老介護の晩年をすごした。平成21年に南田はクモ膜下出血で亡くなり(享年76)1年7ヶ月後、長門も肺炎で亡くなった(享年77)。このふた組、4人の死は「老い」と「夫婦」という問題を浮き彫りしたといえる。

 ギャップが印象的だったのは、有賀さつき(享年52)だ。女子アナからタレントへという華やかな人生を歩みながら、晩年、病気によるやつれをダイエットだとごまかし、最後の入院では肉親にも病状の深刻さを伝えることなく、ひとりでひっそり消えていった。

「実は、卵巣がんだったんです。さつき本人が知られたくないということで、私も隠していました。(略)亡くなる3年前に手術を受けました」(『週刊女性』)

 父親によって具体的な死因が明らかにされたのは、一周忌にあたる平成31年1月のことである。

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『平成の死: 追悼は生きる糧』

 

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鈴木涼美さん(作家・社会学者)推薦!

世界で唯一の「死で読み解く平成史」であり、
「平成に亡くなった著名人への追悼を生きる糧にした奇書」である。

 

「この本を手にとったあなたは、人一倍、死に関心があるはずだ。そんな本を作った自分は、なおさらである。ではなぜ、死に関心があるかといえば、自分の場合はまず、死によって見えてくるものがあるということが大きい。たとえば、人は誰かの死によって時代を感じる。有名人であれ、身近な人であれ、その死から世の中や自分自身のうつろいを見てとるわけだ。
これが誰かの誕生だとそうもいかない。人が知ることができる誕生はせいぜい、皇族のような超有名人やごく身近な人の子供に限られるからだ。また、そういう人たちがこれから何をなすかもわからない。それよりは、すでに何かをなした人の死のほうが、より多くの時代の風景を見せてくれるのである。
したがって、平成という時代を見たいなら、その時代の死を見つめればいい、と考えた。大活躍した有名人だったり、大騒ぎになった事件だったり。その死を振り返ることで、平成という時代が何だったのか、その本質が浮き彫りにできるはずなのだ。
そして、もうひとつ、死そのものを知りたいというのもある。死が怖かったり、逆に憧れたりするのも、死がよくわからないからでもあるだろう。ただ、人は自分の死を認識することはできず、誰かの死から想像するしかない。それが死を学ぶということだ。
さらにいえば、誰かの死を思うことは自分の生き方をも変える。その人の分まで生きようと決意したり、自分も早く逝きたくなってしまったり、その病気や災害の実態に接して予防策を考えたり。いずれにせよ、死を意識することで、覚悟や準備ができる。死は生のゴールでもあるから、自分が本当はどう生きたいのかという発見にもつながるだろう。それはかけがえのない「糧」ともなるにちがいない。
また、死を思うことで死者との「再会」もできる。在りし日が懐かしく甦ったり、新たな魅力を発見したり。死は終わりではなく、思うことで死者も生き続ける。この本は、そんな愉しさにもあふれているはずだ。それをぜひ、ともに味わってほしい。
死とは何か、平成とは何だったのか。そして、自分とは――。それを探るための旅が、ここから始まる。」(「はじめに」より抜粋)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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  • 宝泉 薫
  • 2019.04.28