米中欧の為政者は「コロナ禍」を政治的に利用したけれど、日本の為政者は何をしたのか?【藤森かよこ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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米中欧の為政者は「コロナ禍」を政治的に利用したけれど、日本の為政者は何をしたのか?【藤森かよこ】

21世紀の日本の為政者は18世紀の清朝乾隆帝に及ばない

 

よくわからない日本のコロナ禍対策

 

 私の知人のインテリ中国人ビジネスマンが、「今回の新型コロナウイルス騒動は乾隆帝のスキームを使っている」と思ったということは、すでに冒頭に書いた。

 つまり、「乾隆帝のスキーム」を知っている中国人のインテリは、2020年から世界中の人々を悩ましているウイルス騒ぎは、一種の「ショック・ドクトリン」であると感じた。災害に便乗した為政者による人民コントロール政策だと感じた。今までも何度も歴史上に起きてきたパンデミックのうちでも、ペストや天然痘に比較すれば軽い部類の感染症でしかないのに、各国の為政者の都合によって、実際以上の大事件にされているのではないかと考えたのだ。

 確かに、去年からのウイルス騒ぎを、諸国の為政者はうまく利用したと言える。

 中国の習近平は、感染拡大防止を大義名分にしてデジタル化による国民の監視管理体制を構築することに成功した。

 アメリカのトランプ前大統領は、コロナ禍によって激増した失業者や収入が激減した人々に経済支援のための小切手を送りまくった。家賃を支払えない人々の立ち退きを猶予した。それらの対策によって、為政者への信頼=国家への信頼を獲得しようと試みた。その政策は、次期バイデン政権にも受け継がれた。新型コロナ: 6月末まで立ち退き猶予延長 米CDC、家賃滞納者を保護: 日本経済新聞 (nikkei.com)

  欧州ではどうだったか。欧州連合(EU)は、アメリカや中国に覇権を握られている状況の中での欧州のプレゼンスを高めるためなのか、かつ実効的な生き残りを図るためなのか、大胆な政策を採った。

 2020年4月のEU理事会では総額5,400億ユーロ(約69兆円)規模の3つのセーフティーネットの構築を採択した。その内容は、欧州投資銀行(European Investment Bank:EIB)の支援による企業の保護であった。さらに、欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism:ESM)の支援による国家予算の保護であり、欧州委員会が運用する一時助成金による雇用と労働者の保護であった。

 特記すべきは、「欧州復興計画」(Recovery Plan for Europe)であった。コロナ禍からの復興計画として、「次世代のEU資金」(NextGenerationEU:NGEU)7,500億ユーロ(約96兆円)の供出を決定した。「次期多年度財政枠組」(2021~27年の7か年予算)(Multiannual Financial Framework:MFF)は1兆740億ユーロ(約137兆円)が決まった。これらの総額1兆8,240億ユーロ(約233兆円)は、EU予算によりファイナンスされるものとしては史上最大規模のものであった。

◆ヨーロッパにおける新型コロナウイルス感染症対策とグリーンディール : 財務省 (mof.go.jp)

 

 これら各国の対策が為政者にとって都合よいパンデミック便乗政策であるかどうかはさておいて、また後世にどのような評価を受けるかどうかはさておいて、中国もアメリカも欧州も、為政者の採る方向性は理解しやすい。「理解しやすい」というのは、目的合理的であるという意味である。

 しかし、日本はどうか。徹底的に強制的にワクチン接種を進めて感染拡大防止に努めるわけでもない(私は今のところワクチンについては様子見なので、こういう日本の為政者の中途半端な姿勢は歓迎するが)。

 かといって、コロナによる死亡率の低さを鑑みて、効果のない緊急事態宣言など何回も発令せず、国民の経済活動を決して抑制(邪魔)しないわけでもない。

 オリンピックを開催すると決定したのだから、どうもコロナウイルスはそんなに危なくないようだ。しかし観客は受け入れない。オリンピック開催期間はまるまる「緊急事態宣言期間」や「まん延防止重点措置期間」に入っている。飲食店に時短営業を強いるのに、経営者や従業員への支援は不十分でかつ遅い。

 このわけのわからない日本の為政者の姿勢は、一般の国民には想像もつかない深謀遠慮によるものなのだろうか? ひょっとしたら、故意に国民を混乱させ疲弊させることが、逆説的に国防であるような事態が秘密裏に進行しているのだろうか?

 それとも、属国の歴史が長すぎるので、日本の為政者は宗主国や外国勢力の指令がなくては何もできない状態になってしまったのだろうか?コロナ禍だろうが、オリンピックだろうが、何をすべきなのかわからないので、行き当たりばったりテキトーに対処しているのだろうか?

 こういう為政者を持つ国の国民は、ほんとうに深刻な有事の時には、どうなるのだろうか? どうすればいいのか?

 1768年の清朝乾隆帝の時代よりも政治が機能していないように思える2021年の日本について、私は不安を感じている。「日本と日本政府は違う。政府と国民は違う。日本の為政者と日本人は違う。日本人もいろいろだ」などと、慰めにもならないことを思いながら。

 

文:藤森かよこ

 

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課 程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。  

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