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MMT(現代貨幣理論)が嫌われる理由

日本の閉塞感を突破するには、少数意見を尊重し、 発想を大胆に転換することが大事。

日本の閉塞感を突破するには、少数意見を尊重し、
発想を大胆に転換することが大事

 

 MMTが受け入れられない心理学的な理由の二つ目は、「センメルヴェイス反射」と呼ばれる現象です。

「センメルヴェイス反射」とは、「通説にそぐわない見解を拒否する傾向」のことを言います。「センメルヴェイス」とは、イグナーツ・センメルヴェイスという医師の名に由来します。

 1847年、ウィーン総合病院に勤務していた医師イグナーツ・センメルヴェイスは、出産した母親が産褥熱という病気にかかって死亡する現象を観察して、分娩を担当する医師の汚れた手が原因ではないかと考えました。そこで、分娩を担当する医師の手を消毒することにしたところ、産褥熱による死亡が劇的に減少しました。
 センメルヴェイスは、この大発見を上司の医師に報告しましたが、医師たちは誰も、この大発見を受け入れようとはしませんでした。
 この発見が事実だとすると、医師たちは「長年、医師が素手で大勢の母子を殺してきた」ということになってしまいます。主流派の医師たちにとって、そんな事実は、とうてい受け入れられるものではありませんでした。

 こうして、主流派の医師たちは、センメルヴェイスの発見を一蹴し、無視し続けたのです。結局、1850年、センメルヴェイスはウィーン総合病院を解任されました。
 その後もセンメルヴェイスは、自らの主張を唱え続けましたが、1865年、彼はついに精神科病院に送られてしまいました。センメルヴェイスは、精神病院から逃亡しようとしましたが、守衛たちに取り押さえられ、暴行を受けました。そして、そのときのケガがもとで、死亡したのです。
 この気の毒なセンメルヴェイスの名をとって、少数意見を拒否することを「センメルヴェイス反射」と呼ぶようになったのです。

 最近の神経科学によれば、この「センメルヴェイス反射」は、脳の働きによるものであるようです。

 ある研究によれば、人間の脳には、多数派の見解に逆らおうとすると、それを修正して、多数派の意見に同調しようとする機能があることが分かっています。また、別の研究では、脳は、多数派の意見に同調するために、実際の知覚すら変えてしまうという結果が出たとのことです(クリス・クリアフィールド、アンドラーシュ・ティルシック『巨大システム失敗の本質』(東洋経済新報社)第七章)。

 どうやら、人間の脳は、少数意見を唱えたり、それに耳を傾けたりするのには、向いていないようなのです。特に日本人は、多数派に同調し、少数意見を排除する傾向が強いと言われますね。

 しかし、もし、そうだとすると、これは大変に困ったことです。

 なぜなら、MMTがどんなに正しくても、それが少数意見である限り、多くの人々は受け入れようとはしないということになるからです。

 これでは、MMTは採用されず、日本経済はいつまでたっても停滞から抜け出すことができないということになってしまいます。

 そこで皆さん、ここは一つ、あえて自分の脳の機能に逆らって、MMTという少数意見に耳を傾けてみませんか。閉塞感を突破するには、少数意見を尊重し、発想を大胆に転換することが大事なのです。

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中野 剛志

なかの たけし

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)。  

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  • 剛志, 中野
  • 2019.04.22