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児童虐待と「運命の人質」(前編)

〈平貧〉の時代(13)

■子どもは親のヴィルトゥを問う

 

 ジョン・F・ケネディの名言に、こんなものがあります。

 HE WHO HAS CHILDREN GIVES HOSTAGES TO FORTUNE.
 子どもを持つとは、運命に人質を与えるということだ。

 子どもは未来に生きる。
 しかるに未来のあり方は、現在の世代の努力によってある程度はコントロールできるとはいえ、最終的には運命に任せるしかないもの。

『君主論』で知られるニコロ・マキャベリも、国家の命運について論じる際、「ヴィルトゥ(徳、および徳に裏打ちされた人間的力量)」と並んで、「フォルトゥナ(運命)」の概念を重視しました。
 フォルトゥナは人間の力を超えており、最終的には打ち勝つことのできないものですが、それにできるかぎり立ち向かうとすることに、人間の自由と尊厳がある。
 その際、必要とされる力量がヴィルトゥなのです。
 君主たるもの、国民が幸せに生きられるよう、ヴィルトゥを持って運命に挑まねばなりません。

 同様、子どもを持つ者は誰であれ、「この子が幸せに生きられるかどうかは、最終的には運命次第だ」という真実を受け入れざるをえない。
 ケネディはこれをとらえて「運命に人質を与える」と述べたのですが、子どもが幸せに生きられるよう、運命にできるかぎり立ち向かわなければ、親である資格などないのです。

  裏を返せば、いかなる親も、自分がヴィルトゥをどれくらい持ち合わせているのか、子どもからつねに問われていることになるでしょう。

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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  • 2018.09.15