内戦、破壊、分断…それでもモザイク国家・レバノンは不死鳥のように立ち上がる。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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内戦、破壊、分断…それでもモザイク国家・レバノンは不死鳥のように立ち上がる。

中東のモザイク国家、レバノンの今⑥

多くの問題が混在する今日のレバノン。戦争の傷跡が今でも残るこの国には、政治、経済、社会、をはじめとし、平和な日々を過ごす日本人には想像も付かないような厳しい問題が、多岐に渡って存在する。多くの問題が複雑に絡みあい、ここでもモザイク模様を織りなしてしまう、稀有な社会。しかしながら、こんな社会だからこそ、独特な能力が生き残った人たちの間で、培われていくのではないだろうか。

4000以上あった歴史的建造物が、約20年間で250まで減少

 1975年から15年間も続いた熾烈な内戦が終結したかと思えば、1996年にはイスラエルの爆撃を受け、2005年にはラフィーク・ハリーリー首相が爆弾テロにより暗殺される。翌2006年には再びイスラエルの爆撃を受け、その後は戦争沙汰は起こっていないが、この国には今も争いの傷跡が深く残る。

 

 16~20世紀初頭までこの地を支配してきたオスマン帝国をはじめ、かつてのローマ帝国、ビザンティン帝国、近代ではフランスからの影響も大きく受けてきたレバノンには、この国の複雑な歴史を象徴する、多くの歴史的建造物が軒を連ねていた。

 首都のベイルートをはじめ、ビブロス、バーべリックなどの都市部には、様々な建築様式の建物が肩を並べ、モザイク模様を織りなしていたという。「ベイルートの遺産を救え(Save Beirut Heritage)」というキャンペーングループによると、1990年代に4000以上あったこうした歴史的建造物は、現在、250程度にまで減っているという。度重なる紛争に巻き込まれてきた結果、数奇な運命を歩んできたこの国を象徴するかのような独特な街並みは、甚大な被害を受けた。

 更に、レバノンには歴史的建造物を保護する為の法律が無く、私有地にある私有建造物は、所有者の意図で建物の破壊も、土地の売却も自由に行うことができる。正式な文化団体から保存建造物に指定されているような数少ない例を除き、多くの歴史を物語るような建造物も、所有者の意思で自由にする事が出来る。

 ただ、こうした歴史的建造物を商用目的で破壊する所有者を批判するのは簡単だが、慢性的な政情不安を抱えるこの国で、これが家族を養う為の唯一の手段だったとすると、どうだろうか。歴史・文化的価値の保存の為に、経済的に困窮した生活を選ぶ人が、どれだけいるだろうか。

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竹鼻 智

たけはな さとし

1975年東京都生まれ。明治大学経営学部卒、Nyenrode Business Universiteit(オランダ)経営学修士。2006年より英国ロンドンに在住。ITコンサルタントとジャーナリストのフリーランス二足の草鞋を履きながら活動し、「ラグビーマガジン」(ベースボールマガジン社)、「Number」(文藝春秋)、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)へのコラム執筆など、現地からの情報を日本へ向けて発信。BEST T!MESでは、イングランド代表HC、エディー・ジョーンズ氏の連載「プレッシャーの力」の構成を担当。


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