■お帰り、雄町。今年もよろしく!

 美智子さんが雄町にこだわる理由はただただ、自身もオマチストだからだ。

「日本酒を飲むうちに雄町が大好きになってしまったんです。だからお酒を造るなら雄町と決めていました」

 しかし人気のある雄町はそう易々と手に入る酒米ではない。初年度はとにかくあちこち探してなんとか入手できた。問題は2年目で、仕込み直前になって「今年もお願いします」と連絡して初めてもっと早くから予約するものだと知ったのである。しかしその年も運よく手に入り、2年目も無事に雄町を仕込むことができた。やはり美智子さん、不思議と雄町には縁があるようだ。

 そんな雄町の魅力を尋ねると、「造り手の考え方によっていろんな顔が出せるのがいいところ」だという。

「それに50%と60%でも全く味が違うので、いろんな精米歩合に挑戦してしまうんですよね。女性杜氏は酒造りをよく子育てに例えますが、本当にどれもみんな可愛くて。雄町だけで毎年3銘柄は仕込んでいます」

 雄町について語る美智子さんはキラキラと瞳を輝かせ、笑みが止まらない。これから挑戦したいのは低精米の雄町だ。すでに山田錦では精米歩合90%を手掛けたことがあり、関東信越国税局の鑑評会で賞をとるほどの実力がある。

「純米部門に精米歩合61%以上の部というのができたんですね。そこで2017年は優等賞いただいて、昨年は上位3位以内にあたる特別賞をいただくことができました。精米歩合90%での入賞は全国でもたいへん珍しいそうです。ここまでくると狙いたいなと思ってまして(笑)、次は雄町で造ってみたいと思っているんです」

 結城酒造では仕込み作業もほとんど人力で行っている。この日も冷たい外気の入る作業場で、蒸し揚がった米を阿吽の呼吸でテンポよく放冷していた。現在では放冷機を使う蔵がほとんどで、すべて手作業という蔵は少ない。

「放冷機も昔は使っていたのですが、すごく古いものでしたし、うちは仕込む量が少ないので、それならこれでもいいかなと思って」と、こともなげに美智子さんは笑う。

 米を運ぶにも下に敷いたさらしでクルリと包み、サンタクロースのようにひょいっと担いで走っていってしまう。軽々と運んで見えるが、10㎏単位というから女性にとってはかなりの重労働だろう。シューターを使う蔵も多いが、美智子さんはホースを通したくないのだという。今年で7造り目となる新米杜氏ながら、ひとつひとつ自分の手で確かめるように造っているから、魔法のように素晴らしい酒を生み出せるのかもしれない。

 面白い試みとしては、2017年から農家を限定した銘柄を仕込んでいる。それが「雄町サミット」で知り合った赤磐雄町の生産者である堀内由希子さんの米だけで仕込んだ「結ゆい 特別純米酒 あかいわさんおまち」だ。

 赤磐雄町の純米では、「結ゆい 純米大吟醸」が28BY、29BYと2年連続で全国新酒鑑評会の金賞を受賞した。山田錦のアルコール添加が出品の主流を占める中、純米でもかなりハードルが高い雄町での金賞は全国唯一という快挙だ。酒の仕込みは1年に一度だが、その中で雄町だけはワンシーズンに10本を仕込む。経験値がぐんぐん上昇するのも納得だ。

「雄町だけは仕込みが始まると『お帰り』って思うんです」と美智子さん。

 雄町を愛し、雄町に愛される新米杜氏と雄町の蜜月はまだまだ続きそうだ。

杜氏の浦里美智子さんは明るく朗らかな人柄で、酒の仕込みは丁寧かつ繊細。向かって右が当主の昌明さん、左が昌明さんの弟の宜明さん。
左から、自信のある酒にしか付けない大吟醸を冠した「結ゆい 純米大吟醸」、親交を結ぶ堀内さんが育てた赤磐雄町だけを使用した「結ゆい 特別純米酒 あかいわさんおまち」、90%精米の山田錦使用の「富久福 純米酒 michiko90」。
岡山県の赤磐雄町を作る米農家、堀内由希子さんとコラボして造った日本酒には、ふたりの似顔絵札がついている。
蒸米を放冷する美智子さん。吟醸酒など特別な場合を除いて今ではあまり行われないが、結城酒造では小規模の仕込みの強みを生かして全量手作業で放冷する。
結城酒造 酒蔵の木造建物は江戸の安政年間に建てられたもの。明治期に増設されたレンガ造りの大きな煙突ともに国の有形文化財に登録されている。銘柄は「結ゆい」のほか伝統銘柄「富久福」など。 茨城県結城市結城1589 http://www.yuki-sake.com/

(『一個人』2月号より)