嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車で充実したミニトリップ |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車で充実したミニトリップ

京都の嵐山・嵯峨野観光のついでに短時間で楽しめるおすすめ路線


嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車は、6年前の2014年秋に乗車し、このシリーズでも紹介した。ただし、撮り鉄がメインだったので、乗車したのはトロッコ保津峡駅とトロッコ嵯峨駅の間のみ。走行区間の半分以上は乗り残したままだった。今回、ようやく残りの区間を乗り通すことができたので、レポートしよう。


トロッコ亀岡駅

■6年ぶりの嵯峨野観光鉄道、やっと全線完乗

 乗ったのは、またしても晩秋の紅葉の時期。コロナ禍の影響はあるものの、満席の列車も多い。今回は4人連れということもあり、とくにトロッコ嵯峨駅発のトロッコ亀岡駅行き下り列車は1カ月近く前でも指定券を取ることはできなかった。幸い、トロッコ亀岡駅発の上り列車で午後遅い便に余裕があったので、ネットで予約しておき、京都に着いた日にJR西日本の駅にある券売機で発券しておいた。

 始発のトロッコ亀岡駅は、JR山陰本線(通称「嵯峨野線」)の亀岡駅とは3㎞も離れている。途中にJR馬堀駅があるので、列車でのアクセスは馬堀駅下車のほうが断然近い。といっても歩くと10分近くかかる。馬堀駅前にロータリーがあり、その一角にタクシー乗り場もあったけれど、客待ちのタクシーはいない。電話して呼び出すよりも歩いたほうが早そうなので、のんびり線路沿いにトロッコ亀岡駅に向かった。案内図もあるし、行き方は簡単そうだ。途中でゆるやかな下り坂になり、山陰本線のガードをくぐって右折、再び線路沿いに進むと彼方にトロッコ亀岡駅が見えている。ガードをくぐる前は、郊外の住宅地という雰囲気だったが、ガードをくぐると前方には住宅はなく手つかずの大自然が広がっている。のどかな田園風景に癒されてしまう。

 トロッコ亀岡駅はログハウス風の駅舎で3階建て。といっても1階部分は何もなく、道路よりも一段高いところにある2階部分が案内所と飲食店で、3階部分(駅の表示は2F)がホームを中心とした駅となっている。駅舎内には土産物などを売る売店と切符売り場があり、多くの観光客でごった返すことを見込んで広々としている。ホームは意外に狭いので、鉄分のない観光客は駅舎内で待った方が無難であろう。すぐ脇に山陰本線の複線の線路があり、時折、普通電車や特急列車が通過するので、退屈することはない。山陰本線の線路とトロッコ列車が走る単線の線路の間には、信楽焼きのたぬきが10匹以上2段になって並んでいて圧巻だ。それをバックに記念写真を撮る人も多い。

トロッコ亀岡駅のたぬき達

 やがて、下り列車が客車を先頭に到着した。ディーゼル機関車に5両のトロッコ客車が連結されているが、終点で機関車を付け替える手間を省くため、下り列車は最後尾の機関車が客車を押す形を取り、トロッコ亀岡発の上り列車のみ機関車が先頭に立って列車を牽引する。

トロッコ亀岡駅に到着する列車

 車内は満席。指定席が取れてよかった。出発すると、並走している現在の山陰本線の複線電化の線路が右にカーブしてトンネルの中に消えていく。一方、左手を見ると保津川が近づいてくる。これより、この保津川の景観を眺めながら進むのだ。幸い進行方向左側の席だったので、窓下に渓谷が見えて絶景が堪能できる。ごつごつした巨石が川の両側に転がっている。線路際には紅葉した木々が並び、こちらにも見とれてしまう。

トロッコ列車の車内

 突然、川を横切る人工物が現れるが、今の山陰本線の鉄橋だ。これを含めて3回も山陰本線の鉄橋の下をくぐることになる。現在の山陰本線の線路は緩やかなカーブを描きながら最短距離を結んでいるので、トロッコ列車の走る旧線がいかにカーブの連続だったかが分かる。もっとも、新線はトンネルと鉄橋であっけなくこの付近を疾走してしまうので保津峡の絶景車窓を失ってしまった。トロッコ列車として生き残ったのは嬉しい話である。

保津峡の車窓

 まもなく、「殿の漁場」を通過。昔、丹波亀山の殿様が釣りを楽しんだ場所で、水深が10mほどあり、保津川では2番目に深いところだそうだ。
 やや長いトンネルを抜けると、保津川下りの舟が見える。お互い手を振り合って親交を深める。さらに進むと、川の真ん中に巨大な岩が屹立しているのが見える。孫六岩という名前が付いていて、孫六という岩師が岩を砕こうとしたものの激流に呑まれ命を落としたという悲話が伝わっている。

ひときわ大きな孫六岩

 再び山陰本線の鉄橋の下をくぐる。この鉄橋上には保津峡駅のホームがある。少し進むとトロッコ列車は停車する。かつての保津峡駅で、現在はトロッコ保津峡駅という。6年前、この駅からトロッコ列車に乗車した思い出の駅だ。

JR山陰本線の鉄橋(保津峡駅)が見える

 今回は乗ってくる人もほとんどおらず列車は静かに発車した。やがて列車は唯一の保津川に架かる鉄橋を渡る。この先は、川は車窓右側に移るので、渓谷の眺めは窓越しには見ることができなくなった。それでも、右側に座っている人の向こうにちらちらと景色の片鱗を眺めることができた。対岸に高級旅館「星のや京都」が見えるとの車内放送があった。舟での送迎がユニークな旅館で、旅館に敬意を表してか、列車は一旦停車。ゆっくりと動き出すと、トンネルに吸い込まれていく。まもなくトロッコ嵐山駅に停車。ホームが短いため、乗っていた車両はトンネルの中で停まってしまう。後部2両はドアは開かないのだ。この駅では、意外に多くの乗客が下車する。有名な竹林や天龍寺に行くならこちらの駅の方が終点より近いためだろう。

トロッコ列車のディーゼル機関車

 下車客が多く、ホームに降りられる前方の車両まで移動するのに時間がかかったので少々停車したのち発車。左から寄り添ってきた複線電化の山陰本線の線路に乗り入れる。ただし、下り線を逆走するので驚いてしまう。もっとも、この区間の昼間の列車本数は1時間あたり5本程度であるし、安全対策も万全なので正面衝突などの心配はないのであろう。

 それでも複線の線路を右側通行で進むのは何だか違和感がある。右手に竹林を見ながら進み、3分ほどで終点のトロッコ嵯峨駅に到着する直前にJR山陰本線の線路と分岐して専用ホームに滑り込んでいく。25分ほどの充実したミニトリップはあっけなく終了である。ホーム上は、これから折り返しのトロッコ亀岡行きに乗車しようとする人でごったがえしていた。何とか改札口を出ると、意外に大きな駅構内で、ジオラマやら売店で賑わっている。

トロッコ嵯峨駅の改札口付近

 始発のトロッコ亀岡駅のホームは手狭な上に、列車がホーム一杯に停車したため、機関車の先頭部分をじっくり眺めることはできなかった。この駅の乗車専用改札口から、やっと機関車の全体をカメラに収めることができた。6分で慌ただしく折り返す列車を見送り、駅舎に隣接するSL Roman Café で展示中の本物の蒸気機関車4両を眺めながら、ようやく一息ついたのである。

SLロマンカフェで展示中の蒸気機関車4両

 

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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