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レバノンは「戦う価値のある国」だ。より良き未来へ向けて、声を上げる活動家たち

中東のモザイク国家、レバノンの今④

政治家の汚職や、民間にまで及ぶ“バクシーシ”(賄賂)と呼ばれる習慣が、社会的上層部を中心にある種の必要悪として黙認される、レバノン社会。しかしながら、ここはモザイク国家・レバノン。こうした「社会的上層部」、或いはその近辺にいながらも、こうした悪しき習慣を絶つために戦う人たちもいる。抗議活動、という形で街に出て政府のやり方に異議を唱え、この国を変える為に声を大にする人たちだ。警官隊、更には政府軍と対峙してまでも、この国を変える為に述べる意見、とは。

■リンゴ農園を営む活動家

 

 自分の国の舵を取る、政府の役人や政治家のやり方に不満がある。様々な社会問題を抱えるレバノンでは、こうした不満を抗議活動として表現する、「活動家」という層が存在する。MBA(経営学修士号)、歯科医資格、更にはメディア関連の会社を運営しながらも、普段はレバノン南部でリンゴ農園を営む、ガッサン・ゲルマノスさんもその一人だ。

 教養もあり、社会的にも安定した地位にいるゲルマノスさんは、恵まれない立場にいる人々と共に、街へ出て抗議活動に参加するだけではなく、こうした活動そのもののオーガナイザーの一人でもある。ソーシャルメディア上で1万4千人以上のフォロワーに向けて情報を発信し、活動への参加を呼びかける。

 レバノン政府の公開収支報告書にも的確な疑問を投げかけることができる「活動家」、ゲルマノスさん。ソーシャルメディア・アカウントは政府にモニターされ、自宅のリンゴ農園には、政治家に雇われた山賊が銃弾を撃ち込んできたこともあるという。資産も教養も社会的地位もありながら、何故そんな危険を冒してまでも活動を続けるのだろうか。

「それは、レバノンという国が、戦う価値のある国だからです。繰り返し他国に占領・利用されてきた複雑な歴史や、問題の多い国内の社会構造を抱えながらも、独自の文化を数多く持つ、非常に魅力のある国だからです。これほどに魅力的な国に生まれ育ちながら、自らの問題に目を背けて何もしないなんてことは、私にはできません」

 情熱的に語るゲルマノスさんの目からは、「愛するからこその抗議」、というメッセージが伝わってくる。自らの社会的地位に迎合するのではなく、それを使って、この国の未来を次の世代の為に良くしていこうという、漢(おとこ)の決意が感じられた。

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竹鼻 智

たけはな さとし

1975年東京都生まれ。明治大学経営学部卒、Nyenrode Business Universiteit(オランダ)経営学修士。2006年より英国ロンドンに在住。ITコンサルタントとジャーナリストのフリーランス二足の草鞋を履きながら活動し、「ラグビーマガジン」(ベースボールマガジン社)、「Number」(文藝春秋)、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)へのコラム執筆など、現地からの情報を日本へ向けて発信。BEST T!MESでは、イングランド代表HC、エディー・ジョーンズ氏の連載「プレッシャーの力」の構成を担当。


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