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AIに仕事を奪われないために。身につけるべき「ほんとうの教養」

物事の本質は見えていないところにある。

■本質は見えないところに隠されている

 

 ギリシア語の「真理」という言葉(アレーテイア)は、「隠されていないこと」を意味する。古代ギリシアの哲学者プラトンは、見えている現実世界は見せかけのものに過ぎず、永遠、普遍の真理は、見えないところにある「イデア」として存在していると論じた。『国家』という著書において、プラトンは「洞窟の比喩」としてこれを説明している。

 ほとんどの人は、肉眼で見えているものを見て物事を知ったつもりになってしまい、それ以上深く探究しない。だが、肉眼で見えている現実は、実のところ、洞窟の壁に映った影のようなものに過ぎないのだ。物事を深く探究しない人は、暗い洞窟の中で、身動きがとれないように体を縛られて、壁の方向しか向けないように強制されているような不自由な状態にある。だが、縛られている人の背後では、松明が灯り、影の源となっている物が存在している。

 

 人間は、「見えているものの本質は何だろうか」「今、知っていると思っているものは本当に正しいのだろうか」と、物事の本質を深く探究する哲学的思考をすることで、縛られた状態から自由になり、背後を振り向けるようになる。すると、今まで自分が見ていたものがただの「影」に過ぎず、物事の本質は今まで見えていなかった領域にあると気づけるようになるのだ。

 さらに哲学的思考を深めていけば、その人はやがて暗い洞窟から外へ出て、太陽が眩く輝く洞窟の外の世界へと行けるようになる。外の世界まで行けるほど自由な思考を出来るようになれば、その人は真理を知ることができる力を得られるだろう。

 つまり、物事の本質は見えているところにはなく、見えていないところに隠されていて、それを見抜き、発見できるような、自由な思考を磨くことが大切なのだ。

 たとえば、幾何学では点や線を描くことはできるが、点や線の本質は紙に描かれたものではない。点や線は肉眼では見えず、思考によってしか捉えられない抽象的なものであるから、本質的に言えば面積が存在しない。幾何学は、いちいち紙に描かなくても、抽象的な思考だけで答えを導き出すことができるのだ。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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