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豊臣大坂城研究の最前線

季節と時節でつづる戦国おりおり第358回

■最新大坂城研究をのぞき見

 どこかの新書で見るようなタイトルですが、こちらは講演会とシンポジウムの催しです。12月15日、大阪市立歴史博物館の講堂で開催されましたので行って参りました。
地元の方は良くご存じですが。大阪市立歴史博物館さんはNHK大阪局さんと建屋を共有しており、この日は1階ロビーで地場産野菜の販売会?がおこなわれていたため、大根を抱えたおじさんや白菜を提げたおばさんなどでごった返しており、いささかカオスな雰囲気ではありましたが、そんな事は関係ねー!俺は講演を聴きまくるんだ!と4階の講堂までエスカレーターで昇っていったのでした。

 

 大阪市立大学、大阪府教育庁文化財保護課、大阪市立歴史博物館の三者が地域連携しておこなわれたこの講演会。豊臣時代の大坂城について、ボーリングやサウンディング(音波による地下測量)による本丸の研究最新状況・地盤調査内容、大名屋敷や家臣団屋敷の配置についての埋蔵物や一次史料による推定、絵画史料による大坂城の様子、と現在進んでいる研究の成果が発表されました。

 個人的に特に興味深かったのは、従来徳川幕府によって再建された「徳川大坂城」は、豊臣期大坂城の石垣を徹底的に破壊して大坂の人々に豊臣時代の栄光を忘れさせようとした、などと言われたのに対し、地下に当時の石垣が埋もれていることなどから、再建工事で必要な土砂の搬入などのため石垣を埋める形でスロープを造り、そこを搬入ルートとした可能性がある、という点。

 さらに大坂城建築のための尺は京間基準(1尺≒30.30m)ではなく、太閤検地尺基準(1尺≒30.32cm)が採用された可能性も考えられる、という指摘は非常に面白いです。太閤検地の尺は石田三成が署名したものが有名ですが、大坂築城の段階ですでに三成の管理する基準値が存在し使われたのか、あるいは大坂城築城の段階で生み出された基準値を、のちに三成が検地でも採用したのか。想像は尽きません。

 いずれにしても、豊臣大坂城の研究はこれから先、大阪が万博やIRで外国人観光客を今まで以上に惹きつけるようになれば、一層スムーズな実行が難しくなるかも知れませんから、今のうちに少しでも前に進めていただきたいものです。

 

 写真は、中央が当日のレジュメ、右がチラシ、左は講演者の一人・大澤さんが過去に同テーマの論文を発表した歴史博物館紀要です。

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橋場 日月

はしば あきら

はしば・あきら/大阪府出身。古文書などの史料を駆使した独自のアプローチで、新たな史観を浮き彫りにする研究家兼作家。主な著作に『新説桶狭間合戦』(学研)、『地形で読み解く「真田三代」最強の秘密』(朝日新書)、『大判ビジュアル図解 大迫力!写真と絵でわかる日本史』(西東社)など。


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