気づいた若い者も駆けつけ、関川から剃刀を奪い取った。

 その後の、遣手のセリフがふるっている。

「親方さんに借り代なしたおまえの体、てんでんのままにはなりやすまい」

 

 親方とは楼主のこと。

 楼主に買われた体なのだから、自分勝手に死ぬことなど許されないぞと言っていることになろう。

写真を拡大 図2『梅暦魁草紙』(五柳亭徳升著、天保3年)
写真を拡大 図3『梅暦魁草紙』(五柳亭徳升著、天保3年)

 このように、遣手や若い者がひそかに見張っているため、とくに心中は難しかった。

 そこで、図2の遊女と、図3の若い武士のように、遊女と客の男が何月何日何刻と示し合わせ、同じ時刻に自害することもあった。

 場所は違うが、事実上の心中である。

 ふたりは同時に死ぬことで、あの世で添われると信じていたのである。