■聖徳太子暗殺の陰に潜む黒幕があぶり出されるか?

写真を拡大 上宮王家『日本歴史図会. 第1輯』古谷知新 編(国民図書刊)

『日本書紀』は朝廷の聖者・聖徳太子の実像を曖味にすることによって、暗殺説を密かに退けている。 このような朝廷の態度の理由のひとつとして考えられるのは、もしかすると朝廷と蘇我氏がグルになって聖徳太子を暗殺したのではないか、ということである。

 つまり、『日本書紀』の太子にまつわる多くの謎が、聖徳太子暗殺の悲劇を抹殺するために生まれたものであるとしたら、それを可能にするのは、組織的かつ長い時間をかけて練り上げられた計画的犯行であること以外に考えられない。 

 もし朝廷が蘇我氏の後ろ楯となって聖徳太子暗殺に暗躍していたのならば、朝廷が 『日本書紀』のなかで聖徳太子暗殺を隠蔽したとしても不思議ではなく、だからこそ『日本書紀』はこの事実を抹殺するために、逆に聖徳太子を史上まれにみる聖者として描かざるをえなかったということになるからだ。筆者はここに朝廷の仕掛けた遠大な陰謀を感じずにはいられない。

 そして、この壮大なトリックを完成させることは、乙巳の変で滅亡した蘇我氏だけでは完成させることはできなかったはずだ。なぜなら、『日本書紀』編纂の最後までかかわらないかぎり、この遠大な作業を持続させるのは不可能だからである。すなわち朝廷という永続的な同一権力があってこそはじめて成立しうる「完全犯罪」なのだ。 

 朝廷の仕掛けた完全犯罪のシナリオ。それはいかなるものだったのか。 
そのシナリオに対してひとつの答えを出したのが、梅原猛氏である。 梅原氏は、聖徳太子の実像と朝廷の行った犯罪のすべては、法隆寺に残された多くの謎のなかに隠されているといい、この寺の不思議なあり方に言及している。 
まず「かつて法隆寺には七不思議の伝説があった」と次のような伝承を引用している。 

①法隆寺には蜘蛛が巣をかけない
②南大門の前に鯛石と呼ばれる大きな石がある
③五重塔の上に謙が刺さっている
④不思議な伏蔵がある
⑤法隆寺の蛙には片目がない
⑥夢殿の礼盤(お坊さんがすわる台)の下が汗をかいている
⑦雨だれが穴をあけるべき地面に穴がない。  

 これらの法隆寺の奇怪な伝承を、「何だかうす気味の悪い話である。そのうす気味の悪い伝説の背後にあるのは、いったい何だろうか」 としたうえで、もっと現実的な謎が法隆寺にはあふれているとしている。 たとえば、「中門」の謎である。

(次回につづく)

〈『聖徳太子は誰に殺された?』〉より