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土器の年代は付着した炭化物で測定する

果たして卑弥呼の墓なのか?箸墓古墳の謎 第4回

纒向(まきむく)遺跡の中にある箸墓(はしはか)古墳は果たして卑弥呼の墓なのか?第4回。出土品や最新の測定法から、その謎に迫る。

 

最古級とされる箸墓古墳は
いつ造られたのか?

 築造時期を考える上で重要なものが、周辺調査によって明らかになった古墳に伴う施設である渡り堤や、外堤状の盛り土などから出土する土器である。これらの施設から出土した土器は、布留0式期に位置付けられている。「布留式」というのは古墳時代前期の土器型式で、0式期~4式期に分けられている。箸墓古墳に伴うと考えられる土器はその中でも最も古いものであった。そのため箸墓古墳は最古の古墳と考えられるのである。

 では、この土器が使用されたのは西暦何年頃であったのだろうか。このことを示す成果が国立歴史民俗博物館(以下、歴民博)の研究チームにより2009年に発表されている。この成果によると、箸墓古墳の築造年代は240-260年とされている。いったいこの年代観はどのようにして出されたのだろうか。

 歴民博は土器に付着した炭化物を採取し、加速器質量分析計(AMS)を用いて放射性炭素年代測定を行った。この方法は、植物などに含まれる炭素の一種「炭素14(C14)」が一定の速度(半減期=5730年)で減衰するという特性をいかして、残存する炭素量を調べることで出土遺物の年代を測定するものである。この方法で得られた年代「炭素14年代値」はそのまま使用することができず、較正(こうせい)曲線によって「実年代」に変換する必要がある。較正曲線とは、年輪年代測定によって実際の年代のわかっている資料の「C14」を計測して、較正したものである。つまり、この方法による年代測定は年輪年代測定の成果によるところが大きい。

 対象とした資料は箸墓古墳の周辺調査で出土した布留0式土器や纒向遺跡から出土した土器、纒向石塚古墳や東田(ひがいだ)大塚古墳など周辺の古墳から出土した同時期、あるいはその前後の時期の土器などである。これらに付着していた炭化物を測定し、一部の土器でやや古い結果が出たが、較正することで240-260年という年代が出されたのである。

 この年代については更なる測定資料の増加を待つ必要があるが、箸墓古墳の築造年代を考える上で一つの基準となっている。

《果たして卑弥呼の墓なのか?箸墓古墳の謎 第5回へつづく》

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北井 利幸

きたい としゆき

1978年兵庫県西宮市生まれ。龍谷大学大学院博士後期課程単位取得退学。現在、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館主任学芸員。主な研究テーマは弥生時代の墓制。

 


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