江戸時代に遊郭が設置され繁栄した吉原。その舞台裏を覗きつつ、遊女の実像や当時の大衆文化に迫る連載。

■遊女にとっていい客とは

『ソープランドでボーイをしていました』(玉井次郎著、彩図社、2014年)は、ソープ嬢が歓迎する客について――

一番喜ばれるのは短小で早漏で優しい人だ。

 と、断言している。

 この三条件は、江戸時代にもそっくりあてはまった。

 吉原の遊女は、短小で、早漏で、やさしい男を歓迎した。いわば上客だった。

 要するに、自分が楽をできる客だったからである。

 短小だと、挿入もたやすい。

 早漏だと、すぐに射精させて終わらせることができる。

 性格がやさしいと、廻しで長時間放っておいても、怒って若い者を呼びつけ、難癖をつけるなどもしない。

 いっぽう、遊女に嫌われ、内心で軽蔑されたのが半可通(はんかつう)の客である。

 図1に半可通の客が描かれている。遊女の目に、嫌悪とさげすみの色があるのがわかろう。

 半可通とは、知ったかぶりをして、自慢ばかりする男のこと。要するに、

「おらぁ、江戸っ子だぁ」

 と、江戸生まれを自慢し、とにかくよくしゃべって、吉原の知識をひけらかす、軽薄な男である。

写真を拡大 図1『出謗題無智哉論』(東里山人著、文政8年)

 吉原の遊女は元をただせば、ほとんどが農村の貧農の娘だった。貧しい親に売られ、遊女になったのである。

 そんな遊女からすれば、「おらぁ、江戸っ子だぁ」という男の能天気な自慢は、なんとも腹立たしかったであろう。

 しかも、江戸っ子自慢をしながら、意外とケチだったりすると、もはや軽蔑の対象となった。

 遊女は陰で、そんな男を、

「ふん、あの半可通が」

 と馬鹿にし、溜飲を下げたのである。

 ともあれ、短小、早漏、やさしい男が遊女に好かれたわけだが、これはあくまで客として歓迎したのであり、恋愛感情とは別である。
客のなかの、遊女が真に惚れた男を、間夫(まぶ)とか情男(いろ)といった。

 
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