■日米共同声明は 何を合意したのか
9月26日、安倍総理とトランプ大統領の首脳会談において合意された、日米貿易協定をめぐる交渉の開始は、その端的な例でしょう。
これは普通、「物品貿易協定(Trade Agreement on goods, 略称TAG)」の交渉開始と受け取られています。TAGは物品の輸出入をめぐる関税の削減や撤廃のみをめざすので、サービス分野や投資などに関しても取り決めを交わす「自由貿易協定(Free Trade Agreement, 略称FTA)とは別物というのが政府見解。安倍総理も、「FTAとは全く異なる」と説明したと報じられています(ニューズウィーク日本版、2018年9月27日配信記事)。
なるほど、TAGとFTAが同じはずはありません。そのかぎりにおいて、総理の説明は正しい。
アメリカは以前より、わが国にたいして、二国間のFTAを要求してきました。にもかかわらず、TAGで合意したというのですから、これだけを取れば、日本が向こうの要求を退けたようにも見える。
ところが、お立ち会い。正しい説明をしているにもかかわらず、総理の言葉は日米間の貿易交渉について、間違った印象を与えるものなのです!
なぜか。
「日米両国がTAGをめぐる交渉開始を合意した」ということは、「日米両国が交渉開始に合意したのはTAGのみである」ことを意味しないのです。
え? と思った方のために、合意を表明した日米共同声明を振り返ってみましょう。協定の交渉開始を記した第三項は、外務省のサイトに掲載された日本語訳ではこうなっています。
