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異色の作家が、本で親鸞とヤクザを戦わせた理由

向谷匡史氏インタビュー③

元週刊誌記者という異色の経歴を持つ僧侶がいる。新刊『親鸞がヤクザ事務所に乗り込んで「悪人正機」を説いたら』を著した、向谷匡史氏だ。仏教とヤクザを描く、独特の視点を持つ氏の頭の中をのぞいた。全5回の連続インタビュー第3回。
前回は向谷氏が僧侶になったときのお話しでした。今回はいよいよ今回の新刊ついての話しに。
 

■白と黒の対比

――どうして本書を執筆するに至ったのか、そのきっかけをお聞かせください。 

 これまでも仏教の本は書いてきたのですが、もっとわかりやすいものにしたいと思っていました。そこで考えたのが、白と黒の対比です。白を語るためには黒を対峙させるのがもっとも鮮明でわかりやすいですよね。ということは、仏教を語るならヤクザを置けばいいし、逆にヤクザを語るには仏教と対峙させれば良いのではないかと考えました。

 仏教を道徳と対峙させてもダメなんですよ。“まったく違うものを対峙させたら面白いものができるのではないか”という思いは以前からありました。雑誌記者の時代に経験したことで、虚業と堅気を並べるとどっちも生きるというセオリーはわかっていました。虚業から見れば、実業人のノウハウはわからない。

 その逆も然り。つまり自分の持っている能力というのは意外と自分ではわかっていない。例えばホステスにしても、すばらしい接客術をもっていても、“え?そんなの普通じゃない”となる。違う世界からみたらものすごいものが見えてくる。対比させることでお互いが気づくんですね。

――先生は、仏教とヤクザという両極端の世界に対する造詣をお持ちだったということですね。

 人間誰しも、見栄と煩悩、道徳や宗教心を持っていますが、ヤクザも仏教も、それぞれ先鋭的かつ集約的にそれらを体現しています。すなわち、私たちは見栄も煩悩も持っているけれどヤクザほど強烈ではない、道徳心も宗教心もそう。坊主ほどは持ち合わせてはいません。つまり集約された先鋭的なモノを比較すると、それぞれの特性をよりわかりやすく理解することができます。

次のページヤクザに突っ込ませて、仏教の教義を際立たせる

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向谷 匡史

むかいだに ただし

 1950年生まれ。広島県呉市出身。広島県立呉宮原高校、拓殖大学政経学部卒業。大学在学中からフリーライターとして活動を始め、卒業後、「週刊ポスト」専属記者となる。事件、スポーツ、芸能記事のほか、対談、人物記事をシリーズを担当する。



 その後、編集企画会社を設立。各種パンフレット、会報等の制作から雑誌の取材記事、単行本の執筆編集まで幅広く活動。

 作家に転向後、単行本の執筆のほか、「漫画ゴラク」「漫画サンデー」「週刊アクション」等で劇画原作を手がける。



 2000年11月、保護司拝命。2006年5月、浄土真宗本願寺派(西本願寺)で得度。2013年4月、同派で「教師」取得。空手道「昇空館」館長としての顔を持つ。異色の作家であり僧侶として知られる。



 執筆ジャンルは仏教から人間関係術、さらにヤクザの心理術まで多岐にわたり、人間社会を鋭くとらえた観察眼と切れ味のよい語り口に定評がある。


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  • 2018.07.25