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「部下とは一定の距離感をとる」管理職の大カンチガイ

なぜ、職場改革をしても、社員は辞めていくのか?(中編)

■セクハラ・パワハラに怯える管理職

 部下のやる気を引き出すには、部下の話によく耳を傾け、部下の目標達成を支援する「コーチング」が必要だとして、管理職にコーチング研修を受講させる企業も増えています。

 コーチングとは、相手の話をよく聴き、質問を通して相手の気づきや自発的な行動を促し、かつ部下の変化に気づいて声をかけることでやる気を高めるコミュニケーション手法です。相手に答えを教える「ティーチング」とは違い、対話によって相手の内側にあるやる気や可能性を引き出していく点が大きな特長です。私が営む会社が実施する管理職向け研修でも、「部下の指導・育成においては、部下に対して一歩踏み込んだコミュニケーションが必要です」と伝えています。

 すると、研修に参加する管理職の人たちからは、こんな反応が返ってきます。

「部下とのコミュニケーションが大事であることは理解できますが、かといって一歩踏み込むことでセクハラやパワハラと言われても困ります」

 管理職の人たちは、セクハラやパワハラに対する社会的関心が高まるなか、「上司にそのつもりがなくても、相手が不快だと感じたらセクハラやパワハラになる」と徹底的に指導されています。そのため、「トラブルを避けるため、部下には必要以上に踏み込まないほうがいいんじゃないの?」という考えに傾きがちなのです。

 部下指導や育成では一歩踏み込んだコーチングを求めながら、セクハラやパワハラは御法度。管理職の人たちにとって、コーチングがアクセルなら、セクハラやパワハラ防止はブレーキと映るようです。アクセルとブレーキ──、まるで正反対のことを求められているような錯覚に陥り、「どうすればいいの?」と混乱している中間管理職が多いのです。

 部下と深くコミュニケーションすることで、セクハラやパワハラと言われたくないーー。管理職のこうした懸念に対して、私たちはいつも次のように答えています。

「セクハラやパワハラはやってはいけないことです。しかし、だからといって、部下とのコミュニケーションに一歩踏み込まないのは話が違います。上司が日頃から部下に深く関わり声をかけることで、部下は『上司が見守ってくれるから、自信を持って仕事を進められる』と感じ、仕事に対する手応えや成長実感を得ることができます。コミュニケーションを通して、部下との信頼関係を築くことがとても重要なのです。

 反対に、部下と距離を置けばかえって逆効果です。人はよく知らないものを怖く感じますから、普段あまり会話のない上司からプライベートに関わることを質問されたり、きつく注意されたりすると、過剰に反応しやすくなります。つまり、日常的にコミュニケーションを積み上げておかないと、セクハラやパワハラと訴えられるリスクが高まるのです」

 コーチングは信頼関係がベースのコミュニケーションであり、セクハラやパワハラは信頼関係がない状態で起きやすいと言えます。それなのに、「セクハラやパワハラと言われないために、部下とは一定の距離を保つほうがいい」という誤解が生じているのは、コーチングやセクハラ・パワハラを構造的に整理し、理解していないからと言えます。

初出:『なぜ、職場改革をしても、社員は辞めていくのか?(中編)』ほんきになるWEB 2016年8月26日配信記事を、改題し再構成しました。

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前川 孝雄

まえかわ たかお

(株)FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師

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大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートを経て、2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「上司力研修」「育成風土を創る社内報」「人を活かす経営者ゼミ」などを手掛け、約300社で人が育つ現場づくりを支援。自らも年間100本超の講演、TV番組、雑誌に出演。YAHOO! 「前川孝雄の人が育つ会社研究室」など連載も数多く持つ。


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