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なぜ?若手に広まる「会社を頼るな」という風潮

なぜ、心が折れる職場になってしまうのか?(後編)

■若手に広まる「会社を頼るな」という風潮

 会社は自分たちの面倒を見てくれるわけではない。会社に都合よく使われるだけ使われて、会社に滅私奉公する人生はまっぴらごめんだ──。優秀な若者のなかには、もはや会社に頼らず、自分のことは自分で守ろうと自己武装する風潮が見られます。

 その典型的な動きが、2010年前後に起きたスキルアップブームです。就職氷河期世代は、「右肩上がりの成長」や「年功序列」が過去のものであることを骨身にしみて感じています。そのため、企業社会で生き残っていくには自分磨きに努めることが重要だという意識が強く、勉強熱心な傾向があります。
高度成長期には誰もが感じていた、「頑張って働けば給料が上がり、結婚して家族を持てるようにもなり、いつか郊外に一軒家が持てる」という感覚は今の若者にはありません。

 その代わり、若手世代の論客代表であった古市憲寿さんが書いた『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)に象徴されるような、「会社や日本がどうなっても、自分が幸せであればいい」という考え方が出てきています。将来に希望を見い出しにくい世代だけに、若者が自己研鑽に励む裏にはそのような意識も見え隠れします。

 こうしたスタンスが、年配の上司には利己的に映って反発を覚えるかもしれませんが、大人社会が生んだ若者の防衛意識なので仕方がありません。

 若者の間でワークライフバランスを重視する傾向が強まっていますが、これも若者の自己防衛意識の表れといえます。

 私が教える大学の学生たちと話していると、女子学生だけでなく男子学生も「ワークライフバランスの制度が充実した会社で働きたい」と言います。充実した人生を送るためにワークライフバランスの考え方は大切ですが、それにしても結婚はまだ先という学生が、育休や産休、時短勤務のことを本気で心配しているのです。

 彼らがしきりに口にするのは、「会社に入ると長時間勤務を強いられて、体力が持つか心配なうえ、自分の時間や家族や友だちとのつながりまで失ってしまうのではないか」という不安です。就職すれば自由な時間が減ることに対して、どの世代も少なからず不安に感じていたものです。しかし、今の若者の捉え方はもっと深刻で、恐怖にも近い感情を抱いているようです。

 若者の自己防衛の意識には、彼らにとっての「幸せの価値観」が大きく影響していると思われます。その価値観は、私たちバブル世代のものとは随分変わってきています。

 10年ほど前、新人研修である男性の新入社員が、将来の夢についてこう話しました。

「将来の夢は、結婚して幸せな家庭を持つことです」

 私は、耳を疑いました。20年くらい前までは、「自分らしく働いて天職を見つけたい」「自己実現したい」と話す新人が大半でした。「結婚して家族を持つ」ことはあえて口にするほどの夢ではなかったはずです。

 今の若者は「結婚して幸せになること」が夢だと言います。昭和の頃にはごく当たり前だった、適齢期になればみんな結婚するものという常識が崩れてしまったうえに、仕事に夢や希望が持てなくなったということでしょう。大学の授業で学生に聞いても、「就職するのが楽しみだ」という人はほぼ皆無で、「就職するのが不安」という人が9割以上です。

 背景にあるのは、やはり将来へ希望を持てないことです。今はがむしゃらに働いても給料が確実に上がっていく時代ではありませんし、将来のキャリアも不透明です。ブラック企業の悪評判や非正規雇用者に広がる貧困問題なども見聞きし、自分もいつそのような境遇に陥るかわからない不安を漠然と抱いている若者も多いようです。

 将来に希望が持てないなか、できるだけ効率的に、無理なく無駄なく稼いで、自分の人生を守るのが賢いやり方だと考える若者が増えているのです。

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前川 孝雄

まえかわ たかお

(株)FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師

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大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートを経て、2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「上司力研修」「育成風土を創る社内報」「人を活かす経営者ゼミ」などを手掛け、約300社で人が育つ現場づくりを支援。自らも年間100本超の講演、TV番組、雑誌に出演。YAHOO! 「前川孝雄の人が育つ会社研究室」など連載も数多く持つ。


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