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柏木陽介の未来日記⑧ 自信をつける

ゾーンに入る

 

 あと1カ月でJリーグ開幕を迎える。

 今年の開幕戦はJ1復帰を果たしたガンバ大阪。目標でもあるヤットさん(遠藤保仁)と対戦できることを想像するだけでも今から楽しみでしかたがない。Jリーグ開幕戦で、しかも憧れの選手と戦う――。そんな大事な試合で活躍できる選手になれたらと思う。どうすれば、大一番に強い選手になれるのか。日々の練習に打ち込みながら、そんなことを考えていたら、あるフレーズを思い出した。

ゾーンに入る

 みなさんはこの言葉を聞いたことがあるだろうか。

 スポーツをしたことのある人たちなら分かるかもしれないけれど、高い集中力を維持できることでとにかくなんでもすべてがうまくいく状態で、簡単に言ってしまえば「ノリにノッている」状態になること。

 たとえば、難しいシュートが次々と決まったり、ボールが止まって見えたり、相手ディフェンダーの動きがスローに感じたり、思い描けたコンビネーションでいとも簡単に崩せたり……。そんなことが無意識、というか自然とできる状態に入るのだ。

 僕も何度か経験をしたことがあるけど、ある時はすべてがスローに動いて見えているから、視野も抜群に広くなっていた。ピッチ全体を俯瞰しているもうひとりの自分がいるような感じだから、相手の動きが手に取るように分かるし、先の先を読めるから、あらゆるシーンに冷静に対応することができる。

 最近の試合で言えば、去年(2013年)のJリーグ・6節、湘南ベルマーレ戦がそうだった。

 

湘南戦で慎三と目が合った瞬間…

 

 ベルマーレ戦。本当にイメージ通りのプレーができた日だった。そして2013年のマイベストプレーともいえるプレーが生まれたのもこの日だった。

 以前このコラムでも書かせてもらったけれど、実はその試合まで、僕自身、ゾーンに入る状態とはまったく正反対の状態にあった。チームは開幕戦で前年王者のサンフレッチェ広島にアウェーで勝利し、その後はずっと無敗をキープしていた。けれど僕自身は1試合も納得のいくパフォーマンスができていなくて、メンタル的にかなり落ち込んでいた

 そんな中での前半30分。自分自身が自信を取り戻すキッカケをつかむこととなる、マイベストプレーが生まれる。

 試合前の思いは、どうにかして結果を出して自信を取り戻したい――だった。そしてそんな強い気持ちが実を結んだシーンが、慎三(興梠)の先制点をアシストしたスルーパスだ。なにより、ゴールが生まれるまでのコンビネーションが、僕が描いていたものと、まさにイメージ通りだった。

 シチュエーションはこんな感じだ。ディフェンスライン手前左サイドからビルドアップがスタート。まずは僕から宇賀神、慎三へとボールが渡り、慎三が相手DFを引きつけながら落としてふたたび僕の足元へボールが回ってきた。その瞬間、相手DFの意識が僕の足元に集まったのも感じていたし、慎三のマーカーの足が一瞬止まっていたのも見逃さなかった。まさに相手の“一瞬の緩み”を感じ取って、慎三が飛び出してくれることを信じて、相手GKの鼻先を狙った数センチ単位のスルーパスをちょこんと送ったのだ。

 

 そのスルーパスのボールの軌道の先には、すでに慎三が走りだしていた。その姿を見送りながら、慎三が足を伸ばしてジャンピングボレーでボールの軌道を変えて、相手GKの頭上を抜いてネットを揺らした。

 試合後、慎三と先制点のシーンを振り返った。

「あのシーンは絶対に走り込んでくれると信じていた」

と僕が言うと、慎三も、

「絶対に出してくれると思ったし、あのタイミングしかないと思っていた」

と喜んでくれた。

 あの時、僕の目の前に起きていたすべての出来事は、まさにスローに映って見えていたのだ。振り返って考えると、あのとき僕自身は、ゾーンに入っていたのかもしれない。

 慎三との“あうんの呼吸”で成立したゴールだった。おそらく慎三も僕と同じくらい高い集中力を持って試合に臨んでいたはずだ。それまで浦和レッズに移籍してリーグ戦で一度もゴールを決められていなかった。焦りは、僕以上に持っていたはずだ。自身のパフォーマンスは悪くないのに、ゴールという結果だけがついてこない。レッズにタイトルをもたらすためにやってきたのに……。それはFWにとって本当に言葉にできないほど苦しいものだったはず。

 ゴールを決めたい慎三。気持ちがノラない僕。しかし、その焦りと不安を乗り越えようと前を向いたことが、僕は慎三との“あうんの呼吸”のもとのあのプレーにつながったと思っている

 このゴールで自信を取り戻した僕は、その試合でセットプレーからシーズン初ゴールを叩き出した。しかも右コーナーキックからカーブを巻いて直接ネットを揺らしたのだ。

 追い風を生かせばゴールになるかもしれない、と思ったのは、その前に理想通りのアシストを決めていて、精神的に自信を取り戻していたから。なにより自分自身を信じ切れるようになったことが大きい。

 アスリートにとって「自信」ほど重要なものはない

 そして僕にとって今一番必要なものも同じだ

 今シーズンも僕自身に課されたテーマは同じ。自分自身を信じ、チームメイトを信じる。結果を出して「自信を作る」こと

 海外でプレーする日本人選手が自信に充ち溢れていることを見てもそれは分かる。ということで、このテーマで次回ももう少し書いていきたい! それではまた2週間後!

 

このコラムは隔週水曜日に更新されます。

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柏木 陽介

かしわぎ ようすけ

1987年12月15日生まれ。浦和レッドダイヤモンズ所属のミッドフィルダー。
兵庫県神戸市で生まれ、高校時 にサンフレッチェ広島ユースに。サンフレッチェユースの高円宮杯初制覇に貢献するなど活躍が評価されU-18日本代表にも選出される。2006年にトップ チームに昇格。翌年には日本代表に初選出。10年浦和レッドダイヤモンズに移籍。攻撃の要としてチームを支える。

■オフィシャルブログ
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■~FEARLESS FANTASISTA~

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