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イギリスはなぜEU離脱を決めたか?英国人ジャーナリストに聞く

「ブレグジット」にまつわる5つの疑問。コリン・ジョイス氏に聞く。

Q4.ブレグジットでイギリスは分断されたのか?

■スコットランドの独立を刺激した

 当然対立を生む問題だ。まずUK内のスコットランドの状況を変えている。スコットランドでは、2014年独立運動が国民投票の結果「鎮圧されて」いる。本来一生に一度あるかないかという国民投票だが、いまやスコットランドのナショナリストたちは「ブレグジットは状況をすべて変えた。われわれはもう一度独立を求める」などと言っている。実際問題、どこまで2度目のスコットランド独立投票を要求しているのかはわからないが、とにかくブレグジットはスコットランドとそれ以外のUKとの関係性を変えてしまった。

 EU加盟国のアイルランド共和国と国境を接する北アイルランドも同様に特別なケースだ。北アイルランドとアイルランド共和国の間には、国境検問、税関、パスポートチェック等とは違う「目に見えない国境」が(メイ現首相から)強く求められているが状況は複雑だ。(注:EUとアイルランド共和国は南北アイルランドの間に国境が作られることを拒否し、ブレグジット後も北アイルランドをEUの単一市場と関税同盟内にとどめるよう要求している)。というわけで北アイルランドの人たちはイングランド人とは違う関心でブレグジットに目を向けている。

■「パンドラの箱を開けた」

 イギリス中で、ブレグジット支持者と残留派の対立がある。ご存知の通り残留投票は僅差だった。だから多くの残留派はそれを最終決定として認めることができていない。彼らは、イギリスが民主主義国家であれば投票の問題点を再度洗い出し、ブレグジットがもたらすものを明確にすることで再度の投票ができるのではないかと言っている。ブレグジット支持サイドからすれば、そんなものは特権階級による2016年の民主的投票の妨害行為だ。「民主主義って、自分たちがほしい結果になるまで投票することなのか?」と。

 やはりこれは対立を生む問題なのだ。すでに行われた国民投票について「パンドラの箱を開けた。それがなければなんと良かったか!」と言う人もいる。しかし国民投票そのものを否定することは、大きな憲法問題への市民の発言権を完全に否定してしまうようなもの。いまの状況は散々だ。これはこの数十年の過程から起きている混沌…われわれがほとんど選択肢を与えられることなく、UKがどんどんEUに引きずり込まれてしまった状況の結果だ。

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コリン・ジョイス

1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。 92年来日し、高校の英語教師、『ニューズウィーク日本版』記者、 英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。 07年に渡米し、10年帰国。 著書に『「ニッポン社会」入門』、『「アメリカ社会」入門』、『「イギリス社会」入門』、『驚きの英国史』(NHK出版)、 『新「ニッポン社会」入門』(三賢社)など。近著は、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版)。


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  • コリン・ジョイス
  • 2018.01.08