両親の離婚を経験。娘が50代になってやっと気づけたこと。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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両親の離婚を経験。娘が50代になってやっと気づけたこと。

悲しみを超えるたった一つの覚悟

■母、そして子への想い

もう二度と手に入ることのない記憶という大切なもの。1974年頃自宅にて。写真上から父・姉二人、著者(井上麻矢)

 そしてこの八年間は、母の愚痴を聞くことが増えて、母の歳を意識し始めた八年でもある。

 母はもともと太陽ではなかったのだろうかと思うこともある。

 月の人、日々形を変えてまるで手に負えない。時折、ルナティックに後悔にさいなまれているのだろうか……と心配である今日この頃である。

 大きな天災、そして人災が起きたこの国、真の指導者が不在のままで生きる時代に突入した。

 悲しみを手放し、新しい時代に入ることを怖がらないで進んでほしいと娘たちにそう伝えよう。悪い連鎖を生み出す怒りや恨みや意地悪はすべて一度思い切り捨てて喜びや優しさを受け入れてごらん。生きていくのは大変だけれど、魂の遺伝があるのならあなたたちはママの子だから大丈夫だと励ましてあげたい。

 目を閉じるともうずいぶん前に失ったように思っていた我が家の庭が出現する。

 美しい木々の葉や美しい花々が一斉に咲いて、五月の風を受けて気持ち良さそうに揺れている。さわやかな季節の中で蝶や鳥たちがその木々を飛び回っている。 ああ失ったと思っていたものはここにあったのだ。自分から捨てさえしなければ、無くなったものはいつか必ずまた私のもとに戻るであろう。

 私はむせかえるような緑の中で、大きく深呼吸して安堵する。しばしの休憩を採って今度は喜びを受け入れる……その準備を始める季節がやってくる。

 私はこの美しい月に生まれたことを誇りに思う。

『女にとって夫とはなんだろうか』より構成〉

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井上 麻矢

いのうえ まや

1967年、東京・柳橋生まれ。株式会社「こまつ座」代表取締役社長。千葉県市川市で育ち、御茶ノ水の文化学院高等部英語科に入学。在学中に渡仏。パリで語学学校と陶器の絵付け学校に通う。帰国後、スポーツニッポン新聞東京本社勤務。次女の出産を機に退職し、様々な職を経験する。2009年7月よりこまつ座支配人、同年11月より代表取締役社長に就任。12 年、第三十七回菊田一夫演劇賞特別賞(こまつ座)、第四十七回紀伊國屋演劇賞団体賞(こまつ座)、イタリアのフランコ・エンリケツ賞(こまつ座)受賞。14年、市川市民芸術文化奨励賞受賞。15年、父の井上ひさしから語られた珠玉の言葉77をまとめた『夜中の電話──父・井上ひさし最後の言葉』(集英社インターナショナル)、自身が企画した松竹映画の小説版『小説 母と暮せば』(山田洋次監督と共著、集英社)を連続刊行。17年、こまつ座が「きらめく星座」の成果により第七十二回文化庁芸術祭演劇部門大賞受賞(こまつ座)。西舘好子の娘。


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