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本当のうつ病とは何か。産業医が指摘する「現代型うつ病」との差

「あたなは“うつ”ではありません」産業医の警告4

【ディスチミア親和型うつ病とは?】

 近年では「新型うつ病(現代型うつ病)」と呼ばれるものがマスコミ等で取り上げられ、世間の注目を集めるようになりました。

 この「新型うつ病」という名称はマスコミが広めたものであり、専門的な医学用語ではありません。

 専門用語で新型うつ病に相当するものとしては、2004年に精神科医の樽味伸氏(故人)によって提唱された「ディスチミア親和型うつ病」と呼ばれるものがあります。

「ディスチミア(Disthymia)」という単語は、「不調」や「障害」を意味する「ディスオーダー(disorder)」の「ディス(dis)」と、「胸腺(胸骨の裏側にある免疫器官)」を意味する「タイミア(thymia)」からできています。古代ギリシャでは、心の中枢が胸腺にあると考えられていました。

「ディスチミア親和型うつ病」という名前はものものしい響きですが、「ディスチミア」とは、ようするに「軽い落ち込み」を指していることになります。実際には「抑うつ的」や「活力に乏しい」といったニュアンスでその言葉を使い、命名されたそうです。

 

 ディスチミア親和型うつ病には、自己愛が強く、自分自身に漠然とした万能感をもち、挫折に際しては他罰的(自分ではなく周囲を責める)、自ら積極的にうつ病であることをアピールするといった特徴があります。また、若い人に多いとされるのも大きな特徴のひとつです。

 症状としては、仕事中や職場ではうつ状態が強く、プライベートな時間では元気になるとされています。そして、投薬治療や休養ではなかなか改善が見られず、軽症ながら慢性的で治りにくいタイプのうつ病だと言われています。

 田中さん達のうつ病がまさにこれに当てはまりそうですが、果たしてこれは病気なのでしょうか。

「新型うつ病」だろうと、「ディスチミア親和型うつ病」だろうと、名前は何でもかまわないのですが、これを病気と定義したところで、彼らを治す方法がなければどうにもなりません。職場での悩みを抱えた人が精神科を受診するたび、うつ病患者の数が増え、終わる見込みのない投薬治療が行われるだけのように思えます。
(取り上げる事例は、個人を特定されないよう、実際の話を一部変更しています。もちろん、話を大げさにするなどの脚色は一切していません。また、事例に登場する人名はすべて仮名です。本記事は「あなたは“うつ”ではありません」を再構成しています)。

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山田 博規

やまだ ひろき

1959年生まれ。1984年神戸大学医学部卒業後、住友病院内科勤務。1987年神戸大学医学部第三内科医員。1991年医学博士。2001年医療法人善仁会理事 大橋クリニック院長。2009年山田内科羽田腎クリニック院長。2011年日本医師会認定産業医に。2012年には、厚生労働省から労働衛生コンサルタントとして公認。その後、日本サムスン、オートバックス、浅草今半、千代田食品、日洋、海自検定協会、ジャパンディスプレイなど、さまざまな企業の産業医として、メンタルヘルスの問題を抱える多くの働く人々との面談を行っている。


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