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ハル・ノートはなぜ「最後通牒」となったのか? ソ連に操られた日米和平交渉

大統領に届けられた強硬な対日案「モーゲンソー私案」 シリーズ!日本人のためのインテリジェンス・ヒストリー⑦

 当時、ルーズヴェルト政権に対して対アジア政策を提案していた民間シンクタンクの太平洋問題調査会事務総長のエドワード・C・カーターは、一九四一年十一月に、「暫定協定を潰す会議をするのでワシントンに出てくるようにとホワイトから呼び出しを受けたが、ワシントンに着いてみたらすでに問題は片付いていた」と上院国内治安小委員会で証言しています(上院国内治安小委員会『太平洋問題調査会報告書』p.180)。ちなみにこのカーター事務総長はソ連のシンパでした。

宋美齢(中央)とともにアメリカのシェンノート(左)と会談する蒋介石

 モーゲンソー財務長官メモと前後して作成され、国務省の頭越しに大統領に提出された強硬な対日案「モーゲンソー私案」は、実際にはホワイトの手によるものですが、モーゲンソーの名前で発出されたのでモーゲンソー私案と呼ばれています。
 ここでも、日本が中国及び満洲から軍事的に撤退することが盛り込まれていますが、それは、中国及び満洲をソ連の支配下に追いやることを意味していました。
 これらの条文の多くが最終的にハル・ノートに採用され、日本側は「到底飲むことができない最後通牒」と認識して対米開戦に至りました。日米和平交渉はソ連に操られていたわけです。
 ジョン・コスターの『雪作戦(Operation Snow)』によると、ホワイトは、このモーゲンソー私案に対する日本の回答期限を短く設定せよと提案しています。 

 世界情勢の展開を鑑みれば、合衆国は現在の日米関係の不安定な状況の継続を許容し得ず、また、今や決定的行動が必要であると感じるがゆえに、合衆国は、上記の寛大かつ平和的な二国間の問題解決を限られた期間にのみ提供する。
 もし日本政府がその期間の満了前に、合衆国側の提案を原則的に受け入れると表明しないならば、それは、現在の日本国政府がこれらの問題解決法として、別の、より平和的ならざる方法を望んでおり、さらなる侵略作戦を試みる好都合な機会を待ち受けていることを意味するのみである。(『雪作戦(Operation Snow)』p.136)

 ホワイトの意図は明らかでしょう。日本を徹底的に挑発して何がなんでも戦争に追い込もうという意気込みは、鬼気迫るものがあります。

(『日本は誰と戦ったのか』より構成)

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江崎 道朗

えざき みちお

評論家。専門は安全保障、インテリジェンス、近現代史研究。



1962年生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフなどを経て、2016年夏から本格的に評論活動を開始。月刊正論、月刊WiLL、月刊Voice、日刊SPA!などに論文多数。



著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社新書)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)ほか多数。



 


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