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障害を負い見え方が一変した世界での恋愛

第2回 障害者の「性」

当たり前のことを当たり前のように

 突然の交通事故で脊髄を損傷して、目を覚ますと障害者となっていた希さん。一生歩くことも出来ず元の身体に戻ることが出来ないとわかった時、希さんは人生の全てをあきらめた。

 ふつうの女の子のように恋愛をしたり、結婚をするだなんてとんでもないと思っていた。

 しかし少しずつひとつずつ、自信を取り戻していくことができ、「死にたい」という思いも隣り合わせにならなくなってきて、遂に社会復帰も果たした。

 そんな矢先にヒカルさんは、仕事で海外赴任をすることになってしまう。希さんと離れて暮らす数か月の間の赴任の地で、ヒカルさんは希さんの存在の大切さを強く実感し、希さんに結婚を申し込むことにした。

 希さんはヒカルさんからのプロポーズが嬉しかったが、すぐに結婚に踏み切ることはできなった。「ヒカルさんの重荷になるのではないか」、「家族や周囲にも結婚を反対されるのではないか」と思ったからだ。

 しかし、障害者となっても変わらず関係性を続けてくれるヒカルさんの為に、二人で幸せになるために生きていきたいと心に決め、ヒカルさんとの結婚に踏み切ることにした。

 家族に反対されるかもしれないと思いながらも結婚の意思を両親へ伝えると、それぞれの両親は反対どころか二人の結婚を祝福した。

 希さんが受傷して八年、交際五年半の時が経つ。
 障害を負うまでは当たり前のように思い描いていたライフプランも、障害者となることでたちまち諦めざるをえないことが沢山でてくる。バリアフリーという言葉も耳にはするようにはなってきているが、それは公共のごくごく一部の場所や施設に過ぎないことを、希さんをはじめとした障害を負った方の話を聞くと知ることになる。

 二十年以上住み育った家すら、車椅子生活となれば、まるで違う家になってしまう。しかし、障害を負うことで諦めざるをえなくなることは、気持ちの上でのことも多いようだ。人を好きになるという、ごく自然な気持ちすら、障害者ということで、「相手の足を引っ張るのではないか」、「迷惑をかけるのではないか」などの心配を生み、はなから諦めることになってしまう。

 それは、社会環境のバリアフリー化の問題と合わせて、障害や障害者に対して向けられる眼差しが、大いに関係しているのではないかと思えてならない。どんな状態でも、人は、人だ。一人のひとが、当り前のことを当たり前に思い、選び、生きていくことのできる社会であることを望んでやまない。

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善光 てら

よしみつ てら

障害者や介護や女性ならではの、さまざまなモノ・コト・ヒトについて書く。



乳癌サバイバー。介護福祉士。


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