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障害を負い見え方が一変した世界での恋愛

第2回 障害者の「性」

どこまで諦めなければいけないのか

 例えば、「ヒカルさんとお花見に行きたい! 」と思っても、階段があったり、地面が砂利であれば、車椅子の希さんには行くことができない。海水浴も、海に入ることはおろか、砂浜ではしゃぐこともできない。砂浜に車椅子で入ることができないからだ。買い物や食事も、段差や入口の広さやトイレなどの設備面で、行ける場所が限られてしまう。

 そもそも普通のカップルのように手をつないで歩くことすらできない。天候にも大いに左右され、雨や雪の日は外出そのものを諦めざるをえない。車椅子の希さんには諦めなくてはいけないことが沢山あるのだった。

「一体私はどこまであきらめなくてはならないのか。そして、そんな私に彼も付き合わせてしまい申し訳ない」、「ヒカルさんとはやはり別れたほうが良いのではないか」と思うようになった。

 しかしヒカルさんは、「諦めなければならないこと」に視点を置くのではなく、「出来ることや、行ける場所や方法」を考えてくれた。

 受傷前と同じようにはいかなくても、不可能を可能にしてくれる術を一緒に考えてくれた。そんなヒカルさんの姿勢を見るにつれ、希さんも諦めることが少なくなっていき、諦めないことが増えていくようになり、できることがひとつずつ増えていった。その積み重ねが希さんの自信となり、元来の性格のプラス思考で行動的な性格も取り戻されるようになってきた。それから更に、自動車の運転も訓練の末に再開し取得することができ、就職も決まって社会復帰することができるようになった。

 ひとつずつ出来ることが増えて自信が積み重なっていった。その頃にはもう、死を考えることはなくなってきた。受傷した時は死ぬことばかりを考えていた希さんだった。しかし、首から下の機能が失われた希さんには、自らの命を絶つことはできない。希さんはリハビリを積んで、命を絶てるようになろうとすら思ったという。

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善光 てら

よしみつ てら

障害者や介護や女性ならではの、さまざまなモノ・コト・ヒトについて書く。



乳癌サバイバー。介護福祉士。


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