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「名古屋」と言えば金の鯱。その起源

名古屋の「鯱」の謎を解く 真実の名古屋論⑤

知られざる「鯱」の起源

 確かに、中世の海図に鯱鉾によく似た怪魚の姿を描いたものを見たことがある。この本にはローマのバルベリーニ広場にある噴水の怪魚の写真が載せてある。比較してみればよく分かる。なるほど鯱鉾そのままである。また、イタリアの美術品店には鯱鉾形の怪魚の置物が並んでいる。これも日本人の目には天守閣上の鯱鉾にしか見えない。

 そして、これら鯱状の怪魚は英語ではドルフィンdolphinと言うのだ。ドルフィン、つまり海豚(いるか)である。しかし、鯱もドルフィンと言う。

 このあたりのことは、私も知っていた。名古屋城内にある鯱鉾を説明する掲示板には、外国人観光客のために英文の説明もついている。そこにちゃんとdolphinと書かれているからである。

「鯱」という言葉も、その意味するものも、いくつかあって少し込み入っている。

 名古屋では鯱が町のシンボルとなっており、名古屋港水族館には鯱が飼われている。十年ほど前には、伊勢湾を経て堀川に鯱が溯上するという事件があった。堀川は名古屋城を見上げるすぐ西側にあるため、大変な話題になり、大勢の見物客が川端につめかける騒ぎとなった。

 しかし、この鯱は誰が見ても名古屋城天守閣の鯱鉾とは似ても似つかない。海棲哺乳類の鯱、要するに鯨の一種である。見た目も、白と黒のパンダ模様の美しい鯨である。海豚も鯨の一種であるから、では、この鯱もドルフィンと言うかと思うと、そうではない。これはグランパスgrampusである。これは名古屋のサッカーチームの名前にもなっている。

 一方、鯱鉾はヨーロッパの怪魚と同じ、体に鱗を持つ魚である。もっともこんな魚は現実にはいない。空想上のものだから、この鯱の鱗も龍の鱗のように爬虫類のイメージが投影されているのかも知れない。こちらは英語では先に言ったようにドルフィンである。

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呉 智英

ご ちえい

評論家。昭和21年(1946年)、名古屋市生まれ。早稲田大学法学部卒業。評論の対象は、社会、文化、言葉、マンガなど。日本マンガ学会発足時から十四年間理事を務めた(そのうち会長を四期)。東京理科大学、愛知県立大学などで非常勤講師を務めた。著作に『危険な思想家』『現代マンガの全体像』『現代人の論語』『吉本隆明という共同幻想』『つぎはぎ仏教入門』ほか。名古屋市在住。


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