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シニア世代へ 「いいね!」が少ないのは当然

自分は注目されている、と思う方がおかしい 60歳からの「しばられない」生き方③

「老後の不安」が蔓延する日本。そんななかで、今日のいわゆる「定年本」、「老後本」の内容に異を唱え、『60歳からの「しばられない」生き方』で全く新しい考え方を提案しているのが文筆家の勢古浩爾氏だ。勢古氏自身が、34年間勤続した洋書輸入会社を2006年に退職。以後10年以上の定年後人生を歩んできた。勢古氏が提唱する定年後、老後における人生の嗜み方について訊いてみた。

世間にしばられない

 

 世間には二つの意味がある。ひとつは、世間とは一般社会の価値観(一般通念)のことである(世間的価値)。もうひとつは、その範囲が、個人から、近所や会社といった小社会、一般社会と、時々に変わることである。

 つまり、人は世間という言葉をその都度適当に使っていて、これが世間だというものはない。

 世間の価値観の一番は、金を持っている者がエライ、である。いまはなくなったが、かつての所得番付がそうであり、いまでも世界の資産家ランキングやスポーツ選手の収入や、大企業がどれだけ儲けているかの情報や、一部の芸人がやたら他人の収入を知りたがるのは、その典型例である。

 その価値観にはほかにも、会社はでかければでかいほどエライ(そこに勤めている人もエライ)があり、学歴は高いほど上、があり、有名人はエライ、があり、人は若く見えるほどいい、があり、人は明るくにぎやかなほうがいい、があり、長生きすればするほどエライ、があり、結婚は未婚より上、がある。

 わたしはこれらのほとんどに興味がない(まったく興味がない、でないのは、わたしも一応社会のなかで生きているからである)。人がいい学校や大きい会社を目指し、より多い収入を望み、多くの人と交際できる人間性をもつことは、もちろんいいことである。それだけが「エライ」というのが、わたしは好きではないというだけのことだ。

 それに60も過ぎれば、どんな人間も大差ないな、エライとされてきたものも大したことないな、専門家といえど、ピンは少なく、大半はキリばかりの専門家ばかりではないか、とわかり、そんな世間の価値観がどうでもよくなるのである。

 世間の範囲も適当である。太宰治が喝破したように、世間が許さないというのは、おまえが許さないということだろ、というように、ひとりが、あるいは数人が、ときには小集団が、あるいは一般社会が、「世間」という隠れ蓑を着たり、着させられたりして出現するのである。

 常識や習俗や慣習や文化が長年にわたって混合され、曖昧模糊とした社会的規範として出来上がったものを、一人ひとりが適当に切り取って「世間」を僭称する。そんな世間が無責任なことはいうまでもない。

 世間の口に戸は立てられない、という俗諺は、世間(一人ひとりの人間)はただ好き勝手をいうからである。実体はその時々で姿を変え、たしかな根拠などあるわけがないのである。

 世論も世間である。世論というが世論に「論」はない。パブリック・オピニオンといってもパブリックもオピニオンもない。あるのはマスコミで流された論調に雰囲気的に乗せられたプライベートな好き嫌いだけである。

 大体、自分のことで手一杯の一般の人間に、安保関連法案や北朝鮮問題や原発やアベノミクスや医療制度や、その他諸々の問題について総合的判断などできるわけがないのである。政権支持か不支持かなど、テレビや新聞のマスコミの論調に乗っているだけである。

 歳をとるにつれて、世間の流行にも興味はなくなる。世論調査や各種アンケートは、世間の傾向を知るにはそれなりに重宝だが、わたし個人としてはほとんど信じない。時に、世間の価値観に同意するのは、わたしの価値観と合致する場合だけである。

 わたしは、近所や会社や交際という小社会の世間は、半ば意図的に狭めてきたから、そうでなくても大きな世間ではなかったものが、かぎりなく小さいものになっている。いかなる世間とも、ほぼ絶縁状態である。こちらから縁を切ったようなものだが。

 わたしが生きている場所は、こんな小さな場所である。ひとりの世界に、世間はないのである。

 
次のページ心のなかにある「世間」

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勢古 浩爾

せこ こうじ

1947 年、大分県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。洋書輸入会社に入社、 34年間勤続し、2006年に退職。以後、執筆活動に専念。 著書に『いやな世の中』(ベスト新書)』、『まれに見るバカ』(洋泉社・新書y)、『自分をつくるための読書術』(筑摩書房)、『定年後のリアル』(草思社文庫)シリーズ、『ウソつきの国』(ミシマ社)など多数。


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