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スーチー氏「ロヒンギャ」解決を阻む3つの壁

【ロヒンギャ】を根本敬氏が徹底解説2/3

「軍」と「世論」という2つの壁

国民に演説するスーチー氏
写真:新華社/アフロ

トオル…う~ん、スーチーさんの鶴の一声で何とかならないんでしょうか?

根本…高い壁が立ちはだかっていますね。まずは軍有利にできている現在の憲法上の制約。ロヒンギャの難民問題には警察や軍が大きく関与していますが、アウンサンスーチーさんは警察や軍、国境問題への指揮権が与えられていません。軍に意見することはできますが、軍がそれを聞き入れるかどうかはケース・バイ・ケースです。加えて、軍は100%反ロヒンギャですから、彼らにあまり言い過ぎると「現政権に協力しないよ」と言い出すことも考えられます。

シズカ…スーチーさんはミャンマーの顔だけど権限は限られているのね。

根本それでも、壁が軍だけなら、世論を味方に軍と話し合うことはできるかもしれません。しかし、世論も反ロヒンギャです。ここに2つめの壁があります。アウンサンスーチーさんはなんとかこの問題を前向きに解決したいのに、自分の支持層の国民も反ロヒンギャというわけなのです。アナンさんの答申で国民を説得しようと思ったら襲撃事件が起きてしまい、さらに軍に過剰なロヒンギャ弾圧が生じて国際社会から非難ごうごうとなっているので、彼女はいま板挟みの状況にあるといえます。

トオル…なるほど。軍と世論とスーチーさんとのあいだに微妙な関係があるんですね。

根本…今回の難民問題について国際社会は大きく報じているわけですが、あらためてその理由を考えてみましょう。一つは過去2回あったロヒンギャのバングラデシュへの難民流出に比べて規模が格段に大きいからということですが、もう一つは「アウンサンスーチー政権の元で起きた」からなんです。過去2回の難民流出は軍事政権のもと生じましたが、今回は1991年にノーベル平和賞を取った“あのアウンサンスーチー”率いる政権ですから、国際社会は驚いたのです。

シズカ…どうやって解決するのか、他の政権よりも注がれる目が厳しいのでしょうね。

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根本 敬

ねもと けい

1957年(昭和32年)生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期課程中退。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授などを経て、上智大学外国語学部教授。専攻、ビルマ近現代史。


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