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ブラックでも借りざるを得ない奨学金、最低限知っておくべきリスク

奨学金にどう向き合うべきか? 給付型奨学金から企業・自治体の奨学金まで

 大学進学を希望する高校生やその親の多くにとって、最も悩ましい点の一つは大学の学費や生活費をどう賄うかということだろう。今や、学費が比較的安いと考えられている国立大学でも初年度に約82万円、私立大学になると平均して130万円以上が必要となる。そして、当然学費に加えて生活費や通学費などが別途かかってくる。

 これらの費用を賄う方法として真っ先に思いつくのが、奨学金だ。高校の進路指導の際に先生から紹介を受けた人も多いだろう。実際に大学生のおよそ四割が日本学生支援機構(JASSO、旧日本育英会)から奨学金を借りており、この数は年々増加している。

 

 ただし、大半の奨学金はあくまで貸与型=借金であり、借りた金額を卒業後には全額返済しなければならない。さらにJASSOの第二種奨学金は返済時に最大3%の利子が付く。今年から政府が給付型奨学金制度を導入したものの、受給する条件はかなり厳しく、多くの家庭にとっては手の届かない制度だ。

 とは言え、大学進学を諦めて就職を希望しても厳しい現実が待っている。高卒で就職した人の初任給は平均月16.1万円と、大卒者のそれよりも4万円ほど低い(2016年賃金構造基本統計調査)。将来的な給料の伸び率も一般的には大卒者の方が有利なのが実情だ。

 では、やむを得ず奨学金を借りる際に、どういった点に注意すべきだろうか。今回は、誰もが利用する可能性のある奨学金の問題点と、政府の新しい給付型奨学金制度や企業・自治体の奨学金を含め、それらの奨学金制度を利用する際に気をつけるべき点を解説していこう。

・奨学金を借りる際の注意点 返済できなくなるリスク

 奨学金を「借りる」際に何よりも想定しておくべき点は、卒業後に奨学金の返済が困難になったとき、奨学金は基本的に通常の金融商品と同じように、「借金」として扱われるということだ。

 私が代表を務めるNPO法人POSSEには、奨学金の返済に困った人からの相談が毎日のように寄せられる。
「就職先がブラック企業で病気になりやむを得ず退職したら、奨学金の返済ができなくなった」
「正社員で就職先が見つからず非正規で働いているが、奨学金の返済に回すほど給料が高くない」
 …
 昔のように正社員になれば安定してそれなりの生活を送れるようになる、という前提は今では通用しなくなっているのが現実だが、奨学金の運用は、そのような状況に陥ったとき、想像する以上に「冷たい」のだ。

 返済できない債務者には、重いペナルティーが課せられる。まず3ヶ月の滞納で信用情報機関、いわゆるブラックリストに名前が載せられ、カードを申し込んだりローンを組んだりすることが困難になる。これは完済後5年間続くので、「ほぼ一生」のペナルティーだと言ってよい。

 またJASSOが委託した債権回収会社が自宅まで取り立てにくることもある。さらに、延滞している期間は利子とは別に、借入総額に対して年5%の延滞金が課せられる。つまりお金が無くて返せない間に、返済総額は文字通り膨れ上がっていくのだ。

 それでも返さないでいると、最短で9か月間経過後にJASSOから残金の一括返還を求める裁判を起こされてしまう。「奨学金だから少しくらい待ってくれるだろう」と考えて放置していると、最悪の事態に陥ってしまうのだ。
 事実、昨年度(2016年度)は21242件がブラックリスト化され、9106件がJASSOに訴えられている。

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今野 晴貴

こんの はるき

NPO法人「POSSE」代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間2000件余りの労働相談に関わる。また、相談事例から日本の労働問題について調査、提言を行っている。著書に『ブラック奨学金』(文春新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)など。受賞歴に2013年度大佛次郎論壇賞、同年度流行語大賞トップ10など。仙台市出身、1983年生まれ。


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