国宝流出を食い止める日本
あえて抑止しないイタリア

神居 文化財保護の試行錯誤の時期には、そういうこともあったかもしれません。国宝だから守る、という姿勢だけでは危険ですね。私たちは、ものであってものでないものを守り続けています。本質的なところが失われてしまうのであれば、国宝指定はいらないでしょう。

井上 国宝の規則を定めるのは、日本美術が海外に流出するのを抑止する意味もあると思います。一方で、ルネサンス以降のイタリア美術は、世界中に散りましたが、イタリア人はそれをあえて抑止していません。むしろ誇らしいと思っている。イタリアの作家自体、世界中の王宮に招かれていましたから。国宝として流出を食い止めようとする日本は、イタリアに比べると美術国家ではないということでしょうか?

佐々木丞平(ささき・じょうへい) 京都国立博物館 館長/ 1941 年兵庫県 生まれ。2005 年より京都国立博物館館 長を務める。独立行政法人国立文化財 機構理事長。著作に、『円山応挙研究』(国 書刊行会)など。

佐々木 京都国立博物館は明治30年の開館。明治維新のころは、西洋文化を取り入れるため、日本の伝統や歴史に関心がなく、一気に消滅する危機にありました。文化財保護の観点では本当に問題が多く、廃仏毀釈によって首を切られた仏像など、当時の写真を見ると悲惨な気持ちになります。

 一方その状況を重く受け止める人々もいて、例えば岡倉天心らが調査を始め、日本の文化財を守る必要性を強く訴えたことで、博物館の土台ができました。当時は外国人が文化財を持ち出すのも自由で、多くの文化財が海外に出ていきました。そういう状況を受けて、古社寺保存法などの法律が成立していくのです。

監修:京都国立博物館
〈『日本の宝』より構成〉