宝石箱の中の巨大なダイヤモンド

 その茶色の宝石箱に、藤山はナイフとフォークを入れた。いや、入れたというのは的確ではない。むしろ、肉の塊に、藤山の手にしたナイフとフォークの先が触れたと言ったほうが近い。

 すると、どうだ。まさに「はらり」という言葉しか表現できないほどの、微妙に、肉が骨から滑り落ちたのである。むしろ、いままでどうやって骨にくっついていたのか、と思うほど、いとも簡単に、肉の破片は、赤ワインソースにしどけなくその身を投じたのである。

 僕はフォークで、肉をソースの赤い海から助け出すかのように掬うと、口の中に一気に放り込んだ。他の肉にない牛肉の持つ独特の甘さと赤ワインのコクがあいまって、コクがあるけど、意外にさっぱりとした風味になっていた。煮込んだ肉にしっかりと赤ワイン風味がしみ込んでいる。

「これはうまい!」

 酒に弱い藤山でも、赤ワインソースは大丈夫だ。それに、オックステールはステーキのように、もっと強く肉の味がするのかと思ったが、むしろ、逆に、スッキリ感が口のなかに広がってくるので、食べやすかった。したがって、皿の中央は、あっという間に、きれいな骨のかたまりが残った。これこそ、宝石箱の中の白く巨大なダイヤモンドに見えた。

 牛尾は、フランスでは決して高級素材ではないが、その牛尾を使ってここまで高貴な料理に仕上げることができるのだと思った。まさに、伝説のシェフ、ベルナール・パコー氏たるゆえんである。

 現在、「ランブロワジー」では、この「牛尾の赤ワイン煮込み」は封印され、食べることはできない。本当に残念だ。しかし、東京・三田の「コート・ドール」では、必ずメニューに載っている。しかも、「コート・ドール」の斉須政雄(1950〜)オーナーシェフは、「ランブロワジー」で、ベルナール・パコー氏と開店当時から一緒に働き、店を二ツ星まで獲得した盟友であるから、まさに僕が堪能した「ランブロワジー」の「牛尾の赤ワイン煮込み」と同じ味。

 藤山は、この「コート・ドール」に行けば「ランブロワジー」のこの料理を、いつでも味わうことができるのが何よりうれしいと思っている。フランス料理に興味があるなら、ぜひ、この料理を「コート・ドール」で食べてみてください。心からおすすめする。アラカルト(単品)で、6000円前後だ。

 また、「牛尾の赤ワイン煮込み」はダメでも、パリの「ランブロワジー」に行ってみたい人は、昼夜メニューが同じで、アラカルトのみだから、土曜日の昼に行くのがおすすめだ。なぜかというと、ホテル内レストラン以外のパリの高級レストランは、ほとんど土曜日昼食は休みで、空いていることが多いからである。