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第35回:「二度寝を最高のものにする」(後編)

 

<第35回>

6月×日
【「二度寝を最高のものにする」(後編)】 

前回からの続き。「睡眠至上主義者」のワクサカさんにとって、もっとも素晴らしい時間は、「二度寝をすること」。二度寝を最高のものにするために行った検索とは…?)

 

二度寝。

ひらがなで書くと、「にどね」。実に可愛らしい。まるで言葉のレッサーパンダである。

カタカタで書くと、「ニドネ」。実に美しい。まるでルネッサンス期に登場した絵画のタイトルのごとき響きである。

二度寝。それは睡眠における、大トロの部分である。

 

僕はこの「二度寝」という多幸が訪れる瞬間に、全身全霊を賭けている。心地よく再びの眠りにつけるよう、部屋の湿度を調節し、カーテンはこれでもかというくらいに遮光性に富んだぶ厚い布地のものをセッティングしている。湿気や朝日は、眠りを嗜む者にとって害虫に他ならない。

しかし、この世にはきっと僕と同じくらい、いやそれ以上に二度寝を愛してやまない者たちがいるはずだ。いったい、彼らはどのようにして二度寝を愛でているのであろうか?

知りたい。すごく、知りたい。

 

二度寝を最高のものにする」でグーグル検索。

様々なスレッド、Yahoo!知恵袋、その他ブログなどで、二度寝に魂を売った者たちによる、実に興味深いレポートが散らばっていた。いくつか紹介したい。

 

①「私は、朝6時に起きれば十分に出社時間に間に合う生活をしています。しかし、私は5時に目覚ましをかけます。そこで一度起き、水分補給などをしたのち、またベッドへと潜ります。目覚ましを6時に設定し直し、新たな眠りにつくのです。この二回目の眠りに落ちる瞬間、これが最高に気持ちよいのです」

 

わざわざ一時間前に起きることで、二度寝の快楽に溺れる。長い夢を見たそのあとで、ほんの少しだけ短い夢を楽しむ。夢のボーナストラックまでも食らいつくそうとする、二度寝中毒者の成れの果ての姿が、そこにある。

 

②「目が覚めたら、すぐさま洗面所に直行して顔を洗い、歯を磨く。そして、布団へと舞い戻る。顔も口の中もスッキリした状態で突入する二度寝は、最高です」

 

普通、顔を洗うのは、目を覚ますためである。しかし、このニドネストは二度寝するために顔を洗い、あまつさえ歯まで磨く。神をも恐れぬ、この矛盾。一見清潔感があるように見えるが、実は途方もなくだらしがない。そこまで二度寝を愛する者が存在するとは、正直驚いた。勘だけど、ラーメンばっかり食べていそうな人物像が浮かんだ。いやしかし、二度寝を愛する同志として、惜しみない拍手を送りたい。

 

③「二度寝どころか、三度寝、四度寝も当たり前」

 

この人は、いったいインターネットという場で、なにを世界に公表しているのだろうか。誰も得しないカミングアウト。なんの参考にもならない報告。だが、この人は「二度寝愛好家」の最終進化形に他ならない。ついに人類は、四度寝にまで手を出してしまった。もう我々は、戻れないところまで来ているのかもしれない…。

 

「二度寝を最高のものにする」、その一言をグーグルに入力しただけで、僕は二度寝における奥深い世界を知ることができた。

人生において、最も幸せな瞬間は、どう考えても二度寝をする瞬間だと思う。

もう一度寝たところで、誰からも怒られない。誰も傷つけない。そんな、時間にも心にもゆとりがあるときにしか実行できない二度寝は、鳩を凌駕する平和の象徴だ。

そんな二度寝を、僕は心から愛している。

二度寝をする人たちは皆、幸福である。ブラウザの検索結果を眺めながら、そう確信した。

 

そのあとで「二度寝をする人は年収が低いことが判明」というスレッドを見つけてしまったが、それについては全力で無視をすることにした。

 

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。
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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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