古代ギリシャにいた女性哲学者。なぜ哲学を?「おなら」が作ったキッカケ |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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古代ギリシャにいた女性哲学者。なぜ哲学を?「おなら」が作ったキッカケ

天才の日常~クラテスとヒッパルキア<前篇>

クラテスとヒッパルキアの出会い

 ある時、クラテスはメトロクレスという人物に会いに行くことになった。というのも、メトロクレスが弁論の練習をしている最中におならをしてしまったことで気落ちし、家に閉じこもって絶食したまま死のうとしているのを止めさせてくれと人から頼まれたからである。

 クラテスはメトロクレスの前で「はうちわ豆」をたくさん食べ、大きなおならをしてから、おならをするのは自然なことで恥ずべきことではないと諭した。感激したメトロクレスは、元々別の哲学者の下で学んでいたが、クラテスに弟子入りすることとなった。

 このお騒がせ者のメトロクレスの妹がヒッパルキアだった。兄妹はマロネイアという都市の出身で、クラテスの家と同じようにアレクサンドロス大王の父フィリッポス王が滞在したこともあったほどの裕福な名家に生まれた。

 金持ちで名門、しかも美貌にも恵まれたヒッパルキアには多くの求婚者がいた。だが、彼女はクラテスの話や生き方に惚れ込み、他の男には目もくれなかったという。クラテスは猫背で周りの人から馬鹿にされるほど醜い容姿であったが、彼女にとってはクラテスが全てだと感じられたのだろう。

 両親も、いくら息子メトロクレスの恩人とはいえ、みすぼらしく怪しげな風貌のクラテスよりも、家柄の良いまともな男性と結婚して欲しいと望んだことだろう。だがヒッパルキアは両親に対して「クラテスと結婚させてくれないなら自殺してやる」とまで言っていた。

 兄妹そろってお騒がせ者である。

  困り果てた両親は、クラテスに娘を諦めさせるよう説得してくれと頼んだ。クラテスはその頼みを引き受けて、出来る限りのことをしてヒッパルキアに諦めてもらうように試みたが、彼女の気持ちを変えることはできなかった。

 万策尽きたクラテスは、とうとう着ていた服を脱ぎ捨てて彼女の前で全裸になり「ほら、これがあなたの花婿だ。財産はここにあるだけだ。さあ、これらのことをよく見て心を決めなさい。あなたが私と同じ仕事に携わらないかぎり、私の配偶者にはなれないだろうから」と言った。

 しかし、ヒッパルキアはすぐにクラテスと結婚することを決め、自分自身も夫と同じように哲学者となった。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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