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他のスポーツより、40年も早く「ビデオ判定」を導入した大相撲

大相撲で解く日本社会③

いち早く「ビデオ判定」した大相撲だが、最後は人が判断する。これだけは変えない理由とは? 土俵は日本社会の縮図である――元大相撲力士・舞の海が著書『大相撲で解く「和」と「武」の国・日本』では「相撲」通して「日本とは何か?」を考える。

他のスポーツより、40年も早い「ビデオ判定」の導入

 大相撲のビデオ判定は、昭和44年(1969)に導入されています。他の競技と比べて、これは驚くほど早い時期の導入です。

 たとえば野球では、アメリカの大リーグがビデオ判定を採用したのは2008年です。日本のプロ野球は2010年です。テニスは2005年、柔道は2007年、ボクシングは2008年、レスリングは2009年です。

 相撲は、『古事記』や『日本書紀』に書かれた神話にすでに登場する、歴史の深い競技です。今もまた髷を結い、形式と格式の伝統を重んじる競技でありながら、他の競技より40年ほど早く、ビデオ判定という、現代を代表する文明の利器による判定をいちはやく取り入れています。

 よいもの、使えるものであれば、その採用には何のてらいもありません。その姿勢は、これもまた、日本の文化、日本の社会の特徴をよく映し出していると思います。

 日本は、外来の技術を取り入れて研究し、たとえば自動車など、他よりも優れた製品にしてしまうのが得意です。古くは、漢字などは、もともとは中国のものですが、そこからカタカナ、ひらがななどを開発し、漢字の熟語などはかえって日本から中国へ逆に伝わって使われているものも多いと聞きます。

 新しいものをいちはやく取り入れながら、残すところはしっかりと残すのも日本の特徴だと思います。大相撲もまた、それをよく映し出しています。

 ビデオ判定と土俵下の審判の意見がわかれたときには、土俵下の審判に権限があることになっています。やはり、現場で、取組をその目で見た人の意見に最終的な決定権を持たせています。

 ならば、ビデオ判定など必要ないではないかと思われるかもしれません。「ビデオ判定があることで、かえって審判の権威がなくなってしまうではないか」という声も聞いたことがあります。

 でも、「ビデオ判定を採用している」というところが大事なのです。ビデオ判定が同時にあり、それを参考にしながら、判定に柔軟性をもたせて、力士と、力士を見守る観客の双方に納得のいく裁定を出すことが重要なのです。

 力士にとっては、一番一番が人生をかけた大勝負です。観客もそのドラマを楽しみます。

 大相撲が配慮しているのはまさにこの点です。誰かが独裁的に、たとえば行司だけが決定権をもって決めていくのではなく、審判員が集まり、行司も参加し、土俵上で協議します。ビデオ室でチェックしているビデオ判定員の見解を聞き、みんなで話し合いながら、勝敗を決めていきます。

『大相撲で解く「和」と「武」の国・日本』より構成〉

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舞の海 秀平

まいのうみ しゅうへい












昭和43年(1968)2月17日生まれ、青森県鯵ヶ沢町出身。身長169cm、体重85kg。日本大学相撲部で活躍。大相撲の生涯通算成績:385勝418敗27休。幕内通算成績241勝287敗12休。左四つ、下手投げが得意技で、最高位は小結。三賞は技能賞5回受賞。現在は、NHK大相撲解説や講演会など、マルチな活躍をしている。著書『なぜ、日本人は横綱になれないのか』(ワック)、『小よく大を制す! 勝負脳の磨き方』(扶桑社)他。


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