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ベテランの存在感とはどういうものか。カープ・石井琢朗「タク論。」

広島カープ・石井琢朗コーチの野球論、第三回

■.ベテランがリーダーである必要性はない

 投手陣に黒田、野手陣には新井という、投打に一人ずつの絶対的精神的支柱がいました。 実は、このバランスこそが絶妙で、これが投手陣に黒田と新井だったり、また野手陣に新井と黒田がいたりだったりどちらの状況でもチームはうまく機能しなかっただろうと思います。つまり各部署にひとり、強い支柱がドンと立っていたことが大きかったわけです。

 僕は、ベテランの存在を考えるうえで、この支柱の意味こそが重要だと思っています。精神的支柱というとどうしても「リーダー」をイメージしてしまいます。常に先頭に立ってぐいぐいチームを引っ張っていくような存在ですね。けれど、ことプロ野球、長いペナントレースを戦う上では、ベテランがリーダーを務めるというのは得策ではありません。経験的にも、ベテランがチームを引っ張ろうとすると、リーダーの調子に合わせてチーム状態まで息切れしてしまうことが多いからです。

 

 そういう点でも、黒田と新井の立ち位置は絶妙でした。決して前に出過ぎることなく、選手会長で中堅の小窪哲也の後ろ盾となり、彼をうまく立てることによって若手を中心にチームをまとめてくれました。技術的、メンタル的なアドバイスはもちろん、ときに選手たちを食事に連れて行ったりすることでチームの状態を常にいいところに置いてくれていた(そのときの小窪の頑張りもMVP級でしたけど、それはまた改めて)。

 ふたりにあるのは経験であり、それをもっと噛み砕くと、失敗も多くして来たということ。それこそ前回も書いた「失敗論」を語れる人間ということです。成功論ではなく失敗論。その沢山の失敗こそが彼らの強みです。

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石井 琢朗

いしい たくろう

広島東洋カープ1軍打撃コーチ。1970年8月25日生まれ、栃木県佐野市出身。栃木県足利工業高等学校在籍2年時に夏の甲子園にエースとして出場。1988年、ドラフト外で横浜大洋ホエールズに投手として入団。高卒1年目でいきなり初先発初勝利を挙げるものの、野手への思いが捨てきれず1992年から内野手に。以降、攻守の要として活躍。1998年には不動の一番打者として最多安打、盗塁王を獲得。チーム38年ぶりのリーグ優勝、日本一に貢献する。2009年に広島東洋カープに入団。2012年からはコーチとしてカープを支え、25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。著書に「心の伸びしろ」「過去にあらがう」(前田智徳・鈴川卓也と共著)などがありいずれも大きな反響を呼んだ。


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