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第27回:「タクシー 職業を偽る」(後編)

 

<第27回>

3月×日
【タクシー 職業を偽る】(後編) 
前回からの続き。年に一度か二度、奇跡的にタクシーに乗れる日にワクサカさんが行う、「タクシーの運転手に、職業を偽る」遊びとは…?)

「ふう、日本はまだ寒いですね」

そんな言葉をタクシー運転手に放りかける。
これは、魚の鼻先に釣り針を垂らすのと同じである。

「あ、どちらか海外に行かれていたんですか?」

そんな言葉が運転席から返ってきたら、針に食いついたと思っていい。心の中の審判に「プレイボール!」宣言させよう。

「ええ、タンザニアに三年ほど赴任してまして。今日、日本に帰ってきたんですよ」

言わずもがな、嘘である。
このとき答える国名は、自分もあまりよく知らない国であるほうが、スリルが味わえる。

「え?タンザニア?そりゃすごい。向こうでなにをされていたんですか?」

運転手さんは必ずそう聞いてくる。

深く息を吸い、気持ちを整える。
ここは慎重に答えよう。この瞬間こそに、この遊びの醍醐味が詰まっている。いま、僕は、どんな職業にだってなれるのだ。アイ キャン フライ!

「主にレンジャーですね。サイやゾウを密猟者から守る仕事です」

これで、いい。「レンジャー」という、現実から上手い具合にかけ離れた職業。これが、いい。

あとはタクシーが目的地に着くまでの間、

「サイは悲しい目の色をしている」
「一度、親がタンザニアに遊びに来たんだけど、ずっとゲロを吐いていた(笑)」
「(車窓を眺めて)あ、こんなところにビルが建ったんだ…」
「レンジャーは命のやり取りをする仕事。疲れるが、朝の小鳥のさえずりに癒されている」

といった虚構の発言をテトリスのごとく積み上げ、自分ではない自分に成りきろう。
それは、誰も傷つけないウソ。違う世界の自分に出会える、数十分の夢旅行。

今夜、僕は「タンザニア帰りのレンジャー」に成りきったわけだが、今までにもタクシーの車内で

「ロシア帰りの寿司職人」
「ラスベガス帰りの手品師」
「カンボジア帰りの王族専門のベビーシッター」
「フロリダ帰りのNASAの社員食堂の人」

などに成ったことがある。

経験からいうと、おおかたのタクシーの運転手さんは会話にこそ付き合ってくれるが、おそらく心の奥底では「こいつ、ウソ言ってるな」と見抜いている感じである。でも、運転手さんと僕との、この車内ミニコントが破綻したことは一度たりともない。これは、大人の暗黙のルールに則った、上品な社交遊びとも言える。
ぜひ一度、お試しいただきたい。

すっかり「タンザニア帰りのレンジャー」気分で下車した僕は、すぐさまiPhoneで「タクシー  職業を偽る」をグーグル検索をした。
こんなにも楽しい遊び、もしかしたらもうすでに一般市民の皆様の間でも定着しているのでは、と気になったのだ。
するとYahoo!知恵袋において、

「私の彼氏は『僕の職業は弁護士だ』と言っていたのですが、本当はタクシーの運転手でした。別れるべきですか?」

という質問がされていた。

客が職業を偽れば、運転手も職業を偽る場合だってある。

この美しき地球は、今日も緑が破壊され、密猟者によって多くの生物の命が奪われ、そしてたくさんのウソに溢れている。

 

 

 

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*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。

 

 

 

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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