水をぶっかけた悪妻を天才・哲学者はいかにいなしたのか。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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水をぶっかけた悪妻を天才・哲学者はいかにいなしたのか。

天才? 変人?あの哲学者はどんな「日常」を送ったのか。ソクラテス<中>愛と結婚編

戦争中逃亡に逃亡を重ねるアルキビアデス

 ソクラテスとアルキビアデスは共に兵士として戦争に参加した戦友でもあった。戦場で負傷したアルキビアデスをソクラテスが助けたこともあったそうだ。

 その美貌とソクラテス譲りの弁舌から男女問わず多くの市民の人気を集めたアルキビアデスは、やがて政治家となる。しかも、稀代の煽動政治家として歴史に名を残している。現代でもアイドルや芸能人が政治家となり人気を集めることがあるが、当時も同じだったのだろう。
 
 紀元前415年、スパルタとアテネの間で続いていたペロポネソス戦争は和約による停戦状態にあった。そんな中、アルキビアデスは強硬な主戦論者となり、将軍として大艦隊を率いてシチリア遠征を行う。しかし、彼は遠征出発後に神を冒涜する行為があったという理由で訴えられ、裁判のために召還されることとなってしまった。そこでアルキビアデスは、あろうことか敵国であるスパルタへ逃亡してしまう。欠席裁判では極刑の判決が下され、神官によって神々の呪いがかけられた。 
 亡命したアルキビアデスはスパルタ軍に協力して祖国に敵対することとなる。実際に、アテネに味方していた国々を訪問して離反を促したり、スパルタに砦を築かせたりしていた。ところが、スパルタ内部で彼をよく思わない勢力の策略によりスパルタの王妃と関係を持っていたことが暴露されてしまう。身の危険を感じたアルキビアデスは、今度はペルシア領内に亡命した。そこではスパルタとアテネの戦争を長引かせてペルシアに利益をもたらすための策略を総督に進言したりしていたという。
 
 ところがペルシアとの交友を持とうとして訪れたアテネの使者を通じて、アルキビアデスは再びアテネに復帰することを目論んだ。アテネ国内の一派と結託し、艦隊を率いる将軍として復帰したアルキビアデスは、スパルタとの海戦と陸戦の両方で大勝利を収める。アテネに凱旋したアルキビアデスは、以前とは一転して神の如き英雄のように扱われ市民から熱烈に歓迎されることとなった。
 しかし、その後再び軍勢を率いて出陣したアルキビアデスは、次の戦いでスパルタ軍の奇襲を受けてほとんどの兵力を壊滅させるほどの大惨敗を喫する。多くのアテネ市民は、アルキビアデスがスパルタと通じてわざと祖国を負けさせたと考えた。身の危険を感じたアルキビアデスは、再びペルシアへ逃亡する。
 この敗戦が戦争の趨勢を決定する大きな要因となり、紀元前404年にアテネはスパルタに無条件降伏をした。スパルタはアルキビアデスが再び祖国を取り戻すことがないように、逃亡先へ刺客を放ち、彼を暗殺させた。最後は眠っていた部屋を襲われ、焼き殺されたと言われている。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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