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中学教員の6割近くが「過労死ライン」に達している現状――なぜ教員の残業は無制限なのか?

知ったかぶりでは許されない「学校のリアル」 第1回

◆教員が働き過ぎている

 公立学校の教員には残業時間の上限もなければ、残業代も支給されていない現実を、どれくらいの人が知っているのだろうか。

「ブラック企業」という言葉が普通に使われる状況になって政府は、「働き方改革」を声高に唱えはじめた。そして今年3月28日に「働き方改革実行計画」をまとめ、残業時間の上限を「月45時間、年間360時間以内」とする原則を決めた。残業時間に政府として上限を設けたことについて安倍晋三首相は、「2017年が日本の働き方が変わった出発点として記憶されるだろう」と満足げに語ったという。

 しかし、この上限規制が適用される対象に公立学校はふくまれていない。「働き方が変わった出発点」と安倍首相が胸を張ってみせたにもかかわらず、教員だけが見捨てられたままなのだ。

 

 しかも教員の残業は、ますます酷いことになってきている。4月28日に文部科学省(文科省)による「教員勤務実態調査(2016年度)」の集計(速報値)が発表された。それによれば中学教員の1週間あたりの平均勤務時間は63時間18分で、10年前の前回調査(2006年度)に比べて5時間12分増えている。残業については、厚生労働省(厚労省)が定めている「過労死ライン」に達する週20時間以上の残業をしていた教員が6割近くを占めた。

 この「働き過ぎ」の状況は小学校でも同様で、1週間あたりの平均勤務時間は57時間25分で、前回調査に比べて4時間9分増えている。過労死ラインに達する残業をしていた教員も、33.5%に及んでいた。

 こうした「教員の働き過ぎ」には問題があるとして、大学教授や教育評論家らが呼びかけ人となっている「教職員の働き方改革推進プロジェクト」が、5月2日から「教職員の時間外労働にも上限規制を設けて下さい!!」という署名運動をネット上でスタートさせた。20万人の署名を集めて、文科省大臣と厚労省大臣に提出する予定だ。

 その呼びかけ文には、教員実態調査より、さらに深刻な現実も示されている。過労死ラインを超える労働をしている教員は、小学校で55.1%、中学校では79.8%にもなっているという。これは、2015年の連合総合生活開発研究所(連合総研)が2015年に行ったアンケート調査をベースに算出したものである。

 文科省と連合総研の数字には差がある。教員の働き過ぎを大問題にしたくない側と、働き手を優先する側の違い、と言えなくもない。とはいえ、教員の働き過ぎが過労死ラインを超える深刻な状況であることは両者の数字が共に明らかにしている。

 署名の呼びかけ人の一人でもあり、事務局も務める青木純一・日本体育女子大学教授は、教員だけでなく学校外にも広く署名活動をはじめた理由を次のように語った。

「もはや、教員の働き過ぎを学校だけで解決するのは、とても難しい状態にまでなってきています。改善するには、外から規制していくしかない。上限規制という環境を整えることが、いま必要だと考えて署名運動をスタートさせました」

 
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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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