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「原発は利益の問題ではなく生き方の問題である」南相馬在住作家・柳美里が突きつける、原子力政策の誤り

芥川賞作家・柳美里に聞く「原発が壊したもの」

原発で問われるのは「義」

 原発事故後も、日本の中枢にいる政治家や経済人たちは「日本の将来の経済発展や温暖化対策を考えれば、原発は人類にとってプラスに働く(細田博之・自民党幹事長代行 2013・11・13)」「エネルギー安全保障、環境への適合、経済効率性、国民生活の安全安心の確保の観点から、原発を将来にわたって、我が国の基幹エネルギーの一つとして位置付けることが必要(榊原定征・東レ株式会社代表取締役 取締役会長 2013・2・18)」などという言葉を口にします。
 わたしが臨時災害放送局でお話を聴き続けている南相馬の方々は、お一人おひとり惚れ惚れするような丁寧な生き方をしています。
 福島県の浜通りは交通の便が悪いところです。首都圏で暮らす人々が、どっちが損だ、どっちが得だと右往左往していた高度成長期やバブル期にも、この地の人々はお金などに煽られることなく、お金には換えられない海や川や山などの自然に親しんだ暮らしを営んできたのです。
 何度でも繰り返し言いますが、その掛け替えのない暮らしと、人と人との繋がりを破壊したのが、経済原則の権化のような原子力発電所の事故です。
 わたしは、原発事故によるリスクと、原発による経済的利益を天秤に掛けるのは、日本人が古来から大切にしていた「義」に反すると思っています。
「義」とは、人の行いが道徳や倫理にかなっていること、という意味です。
 原子力政策によって問われているのは、損得ではなく「義」です。
 日本で暮らすわたしたち一人ひとりの「生き方」が問われているのです。

『人生にはやらなくていいことがある』より構成】

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柳 美里

ゆう みり

1968年生まれ。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に入団。役者、演出助手を経て、86年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。97年、『家族シネマ』で芥川賞を受賞。著書に『フルハウス』(泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞)、『ゴールドラッシュ』(木山捷平文学賞)、『命』、『8月の果て』、『雨と夢のあとに』、『グッドバイ・ママ』、『JR上野駅公園口』、『貧乏の神様』、『ねこのおうち』、『まちあわせ』他多数。

写真/大森克己



 

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  • 2016.12.10