忖度をする医療の世界は、悪いほうに進んでいく。宗教学者と心理学者が直言 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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忖度をする医療の世界は、悪いほうに進んでいく。宗教学者と心理学者が直言

島田裕巳×和田秀樹。現代にはびこる問題を解き明かす(後編)

官僚の「天下り」が〝悪〟とはいえない

 

和田 日本の医学のシステムもどこか教団的なシステムで成り立っていて、医学会のボスは引退してからもボスでありつづけることが多い。それは世間の想像のできる世界とは違います。その代わり、医学会のボスには真面目な人間が多い。もともと勉強が好き、競争で人に負けることが嫌いという学歴秀才が入る組織が医学部です。だからダメなんだといわれることもありますが、学歴秀才でなければダメなこともあります。

 開業医にはインセンティブがありますが、大学病院の医者たちは腕がよくても給料がほとんど上がらずなんのインセンティブもないのに真面目に臨床をやるわけです。さらに大学病院の医者たちは、臨床ができても教授になれません。論文の数で教授になるわけです。勉強をするインセンティブや手術がじょうずになるインセンティブもない。せいぜい患者さんのお礼くらいです。
 それで彼らが医療ミスをしないとか、真面目に医療に従事しているというのは、根っから勉強好きで医師をめざすような、性格的に真面目な人間を医学部に入れているからだとしか、僕には思えません。

島田 昔の、中国の「科挙」のようものですね。優秀な人間が官僚になるというのと一緒でしょう。

和田 日本の官僚組織も比較的ローコストで優秀な人間を集めることができていた。非常にうまく運営されている組織だと思います。それなのに、どうして日本人はその官僚のシステムを批判ばかりするのかな、と思うわけです。

島田 官僚もバリバリ仕事をしている期間に経済的に豊かになるのかというと、そうはなっていないわけですよね。最終的に天下りなどがあり、その時点で救われるというシステムでやってきた。ですから、みんな現役のときに働いたわけです。天下りのような状況を崩すとみんな働かない。

和田 そう思います。天下りというシステムがあるから、現役のときに一所懸命、公のために働くという心理が彼らにはある。それを無視して官僚をバッシングするのは、日本にとって建設的と思えないのです。

島田 文部科学省の天下りが問題にされていますが、なんでそうしたあり方が生まれるのか、そこを議論しないと根本的な解決にはなりません。天下りを受け入れる側の事情も強く関係しているし、文部行政そのものがそこに深く関わっている。文部科学省以外でも問題は同じでしょう。そこまでメスを入れないと、解決にはとてもなりませんね。

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