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宗教学者と心理学者が直言。正義と悪をはっきり分ける「テレビ教」に注意せよ

島田裕巳×和田秀樹。現代にはびこる問題を解き明かす(前編)

 悩みの多い時代である。救いがあるようにも見えない。
 精神科医の和田秀樹氏は人間の心理についてこう語る。
「人間はいわゆる曖昧状況に耐えられない。認知的複雑性といって複雑性が獲得できないと人間は物事を白か黒かで分けたがる。グレーがあることのほうが認知的な複雑性が高いし、そのほうが適応的に生きられるはずなのですが、白か黒かをはっきりしたがる特性がある」
「それがある限り、人間の中からは宗教心が絶対になくならないのですが、白か黒かをはっきりするということは、正か邪かをはっきりさせることですから、現代のように科学的に見えるものが正で、科学的に見えないものが邪という状況下では宗教の状況がつらいんだと思う」
 それによって「いろいろな宗教が自分自身を変えてしまう」(和田氏)状況が生み出され、現代においては(科学や、イデオロギーといった)「宗教的なもの」が溢れるようになる。
 では「宗教」と「精神科」はどんな役割を果たすのか。どう現代を見ているのか。
 宗教学者・島田裕巳氏と精神科医・和田秀樹氏による共著『「宗教」と「精神科」は現代の病を救えるのか』より、ふたりが警鐘を鳴らす「日本の宗教的なもの」についてご紹介する(前後編の前編)。

複雑なことから逃げる「テレビ教」

 

和田 今のテレビ局は宗教的です。白黒をはっきりさせるとか、悪役と正義の味方をはっきりさせるというやり方を僕は宗教的だと思っています。誤解を恐れずにいえば「テレビ教」ですね。テレビに出ている人は偉いし、それは正義の味方であると考えられていたりする。
 テレビは不思議です。たくさんテレビに出ているだけで尊敬されてしまいますから。
 そんなテレビの世界で事件についてコメントを求められたとしても、いろいろな可能性は捨象されて、単純化されてしまいます。

 それに、さまざまな可能性を述べていても、テレビ局が一つのことだけを取り上げて編集をしてしまう。原因の単純化をして、敵と味方をはっきり分けるわけです。正義と悪をはっきり分ける。そしてすぐに神様をつくる。そこで神様になってしまったら、もう落ち目にならないです。ビートたけしさんであれ誰であれ、神様になったらもうテレビメディアの中でバッシングは受けない。いわゆる信心してテレビ教に入った人はテレビから離れられない。

島田 たしかにテレビ向きといわれるのは、コメントが短いということですよね。一〇秒、一五秒くらいの短い時間でコメントができるかどうかというところで、コメントが使われるかどうかの一つの判断材料になっていると思います。

和田 僕は逆ですから、テレビにおよそ向かない。すぐに干されます(笑)。本来、宗教は悩むためのものなのかもしれませんから、テレビ教というのは正当な宗教かどうかわかりません。島田先生にいわせたら、そんなものは宗教じゃないといわれるかもしれませんが……。

 僕たち心理学なり、認知をやっている立場から見ると、認知性や複雑性から逃げることができて、信じられる信念体系をつくり、白黒をはっきりつけ、認知的に楽をしたり悩まないですむ。そういう仕組みをつくることがある種、宗教的といえるのならば、それこそ、科学であれ人文科学であれ、不老不死万能幻想であれ今のテレビのつくり方であれ、ものすごく宗教的に見えるんです。

島田 宗教というものはじつは多様です。「宗教」と「宗教団体」、「組織としての宗教」というのはかなり違っています。宗教については否定しないけれど、新宗教のように集団で結束しているようなものはけしからんということが一般の風潮です。

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