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現役のうちから始めたい 隠居生活の準備

スローに暮らしてみる

スローフード、梅干しを手作り

 味噌や梅干しも手作りが、スローライフの流儀だ。一年二年と時を経て熟成されるので、正にファストフードの対極にある。スーパーで買うものだと思い込んでいたものを、いざ自分で作ってみると様々な発見や驚きがある。

 特に梅干しは誰が考案したのか、誠に不思議な製法だ。梅雨に入ると、完熟した南高梅を予約注文する。もちろん無農薬栽培の梅だ。綺麗に洗って二、三時間水に浸けた後、一個ずつ良く拭いてヘタを取り除く。三十五度の焼酎で消毒したホーロー容器に、梅と塩を順番に重ねていく。塩は天然の粗塩で、梅の重量の十五パーセントだ。最近は減塩と称して塩分の低い梅干しがあるが、腐りやすいため防腐剤が添加されている。何のための減塩なのか、この方が却って身体に悪い。梅の倍の重さの重石を載せ、二、三週間もすれば梅酢が上がってくる。浸透圧のせいで、梅から水分が染み出てくるのだ。

 梅雨が明けると、土用干しを迎える。不可解なのはここからだ。梅を容器から取り出し、朝から天日干しにする。梅酢も容器ごと一緒に天日干しにする。夕方になると梅を梅酢の入った容器に戻す。干されて萎びた梅を、再び自分の中から出た液に浸すのだ。これを三日間繰り返し、最終日は一昼夜干しておく。
半年位で塩が馴染んでくるが、百年経っても腐ることなく食べることができる。もし、無農薬で無添加、そして天日干しの梅干しを買おうものなら、目ん玉が飛び出る程の値段が付いている。

 食生活が悪いと、健康ばかりか、暮らしの喜びまで損なわれてしまう。毎日食卓に高級料理を並べる必要はないが、ファストフードのテイクアウトやインスタント食品では侘しい。もし、伴侶をなくしても長生きしたければ、今の内から少しずつでも料理を作れるようにしておこう。

『今から始まる隠居のレッスン――ローコストで楽しむ暮らしのレシピ――』(奥田裕章著)より抜粋>
 

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奥田 裕章

おくだ ひろあき

一九六〇年生まれ、大阪府出身。名古屋市立大学医学部卒、近畿大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士、作家。山岳愛好家、料理研究家として、趣味のトレッキングとクッキングに勤しむ。私生活では、ミニマリスト&ダウンシフターとして、シンプルでスローな暮らしをエンジョイしている。現在、兵庫県に在住。夫婦二人暮らし。


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