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第15回:「餅レシピ」

 

<第15回>

1月×日【餅レシピ】 

飽きた。
餅に。

倒置法を用いたいほどに、餅に飽きた。

もう元日から5日も経過したわけだが、完全にコタツに根を生やしてしまった。動きたくても、動けない。目の前には、大量の餅がある。

年末に餅つきをした。

僕は「年末」が異常に好きな人間だ。鼻息を荒げながら大掃除をしたり、白目をむきながら年賀状を書いたり、紅白を観ながら自らをジャニス・イアンと思い込んだりと、年末は一種の興奮状態に陥る。いわゆる年末ハイである。「年末ハイ」という言葉が本当にいわゆっているのかどうかは、謎だが。
で、餅つきでも当然はりきり、大量の餅を臼と杵で生産したわけだが、問題は年が明けてから訪れる。

年末にハイになりすぎた結果、ツケが年始にまわってくる。より戻しが襲ってくるのだ。
ダウナーな気分になり、口を半開きにし、虚ろな目で箱根駅伝をダラダラと観る。何をする気も起きず、鈍く錆ついた気分を抱えたままコタツの中で過ごす。時折、強烈な禁断症状が出て、泡を吹きながら録画した年末の紅白を観返す。
食料を買いに行く気も起きず、うず高く積み上げられた餅を敗戦処理の気分で胃袋へと運ぶ。納豆、醤油、プレーン。鬱々とした気分と、餅の単調な味わいとがあいまって、正月の部屋は灰色に満たされていく。

そしてようやく、危機感にさらされる。
「そろそろ仕事をしなければ」
まずはこの沈殿した気分を駆逐しなくてはならない。そのためには、この餅を全て平らげ、正月モードの電源をオフにする必要がある。
そうだ、冷蔵庫の残り物を餅でサンドして、一気に食べてしまおう!餅サンドだ、餅サンド!
と完全に勢いだけで台所に立ち思いつきで作った、その餅サンドなる料理をあえて文字だけで描くなら、

 


ゴマ
塩昆布
ハム
ケチャップ
チーズ
レタス

といった具合であった。アスキーアートみたいにならないかなと思っていたら全然ならなかった「文字だけで餅サンドを表現コーナー」はちょっと残念な感じに終わったが、現物の餅サンドもそれはそれは残念な味だった。とにかく餅とレタスの相性が最悪だった。

まだ餅は残っている。
こうなったら、某大手クッキングレシピサイトに頼るしかないと、PC電源を入れて、ブラウザを立ち上げて、クックをパッドして「餅レシピ」で検索。

画面に並ぶ、数々の餅を利用したレシピ。餅グラタンや餅ピザなど、斬新なレシピが目立つ。では人気No.1の餅レシピは?と「人気順」のリンクをクリックすると、
「レシピの人気順を閲覧するためには有料会員になってね」
的なポップアップがどどんと表示された。

なんだ、これは。
「うちのNo.1を指名していただくには、ちょっとお値段が張りまして、ゲヘヘ」ってか。
餅ごときがまさかの高級クラブ気取り。お前などは、つかれてのびて乾いていればいいのだ。

いや、餅が悪いのではない。本当の悪は、この有料システムを考えた人間である。ただ餅を美味しく食べたいだけの僕の気持ちを、ポップアップひとつで踏みにじるなんて。

いや待ってくれ、本当に本当の悪は、この僕自身かもしれぬ。餅やレシピサイトに憤っているヒマがあったら、さっさと仕事を始めればいいのだ。

僕は頭を抱え、そのうち考えを巡らすこともめんどくさくなり、コタツに突っ伏してそのまま寝てしまった。

諸悪と逡巡にまみれた正月の中、コタツの上の餅だけが無垢な白い輝きを放っていた。

 

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。今年もよろしくお願いいたします!

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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