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話題の書『人工知能が変える仕事の未来』著者がAI万能論に異

30年以上人工知能研究に携わる「ドクター・ノムラン」が見たAIの可能性・人間の強さ

研究者の視点、産業応用を目指す技術者の視点に立って、AIの産業・経営・仕事の可能性を探った『人工知能が変える仕事の未来』(日本経済新聞出版社)。「第3次AIブームの本質を理解するのに最重要の書」と話題を呼ぶ同書。著者の野村直之氏がAI万能論に異を唱える。独占寄稿。反論は同書488ページを読んでから!

ディープ・ラーニングが最強である。……間違いです!

 

 第3次AIブームをバブルで終わらせないため、生産性向上とサービス水準の大幅向上、カバレージ拡大との両立のため(消費者は大手ネット企業のサービス競争で「より便利なサービス享受」の可能性を知ってしまい欲求は高まるばかり!)、AIを社会全体で確実に役立てていきたい。

 そのためには、まずディープラーニングに象徴される、今日のAIの実像を知る必要があります。上図は、小さめの(256 dots四方の)フルカラー画像群から、その中に共通する特徴が中小化され、最後、6×8 dotsの小さな小さな画像にマッピングされ、それが一対一で、猫の名前に対応した表を参照してディープラーニングによる画像認識がなされる工程を描いています。このような仕組みに人類が滅ぼされるはずはありません。

 私自身、AI研究の最前線にいて、なおかつ、ヒトの能力を科学者として分析、評価していると、ヒトの能力の偉大さに打ちのめされ、ヒトの能力を支える複雑精妙かつ膨大な仕組みに感嘆させられます。一人の人間の能力の全てを上回る超知性AIが今世紀中に誕生する可能性は低いにも関わらず、根拠のない技術面の楽観論、その極端な言説としての雇用崩壊を説く悲観論が蔓延しています。ガートナー社(米国のIT分野の調査・助言を行う企業)は自ら、AIにまつわる10の誤解を2016年末に発表しました。いくつか抜粋、引用すると:

  1. すごく賢いAIが既に存在する。

2.  IBM Watsonのようなものや機械学習、深層学習を導入すれば、誰でもすぐに「すごいこと」ができる。

3.  AIと呼ばれる単一のテクノロジーが存在する。

4.  AIを導入するとすぐに効果が出る。

5.  「教師なし学習」は教えなくてよいため「教師あり学習」よりも優れている。

6.  ディープ・ラーニングが最強である。

7.  アルゴリズムをコンピュータ言語のように選べる。

8.  誰でもがすぐに使えるAIがある。

 ・・・

 これらはすべて間違いです。

 20数年前の第2次AIブームでは、感染症の診断から、企業の営業ノウハウまでをAIに取り込もうとした  “エキスパートシステム” が流行りました。ただ実際このエキスパートシステムに職人の知識を移植しようとしても、職人自身が「なぜどうやって」職人芸を遂行出来ているのか言葉でも説明できない(ましてプログラム言語でなど記述できない)という、「知識獲得ボトルネック」が立ちはだかりました。

 ディープラーニングの場合、確かに、人間が対象知識をモデル化する必要がなく、特徴が全自動で認識されるのは、まぁいいのですが(どこにどう認識されたかわからず知識の保守ができないというデメリットはありますが)、トレーニング用の正解データの整備、拡充に莫大なコストがかかる、という問題点があります。これは、結果的には、今日の新手の「知識獲得ボトルネック」ということができます。知識獲得ボトルネックの解消のために多段にディープラーニングを適用して一歩ずつ自動化を進めたりするのが、研究コミュニティの最大の関心事の1つです。

次のページAIの時代だからこそ人間にしかできないことを

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ブログ「人工知能が変える仕事の未来」も要チェック!

http://japan.cnet.com/blog/nomura/

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野村 直之

のむら なおゆき

メタデータ株式会社代表取締役社長、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科兼担教員。



1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NECC&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。


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  • 2016.11.16