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愛人契約:55歳女性×55歳男性 極めて合理的な売買春の世界

見えない買春の現場 「JKビジネス」のリアル 第5回

■地方都市における愛人契約の事例

 買う男の実像をより分かりやすく説明するために、鈴木さんは地方都市における愛人契約の事例を紹介してくれた。愛人契約というと、富裕層の中年男性が、いわゆるグラビアアイドルの卵のような美人女性と月30万円で契約、といった通俗的なイメージがあるが、鈴木さんによれば現実は決してそうした世界ばかりではないそうだ。下腹部に脂肪がたっぷりついている全く美人ではない50代の中年女性でも愛人の男性がいるケースがあるという。

鈴木「そういった女性の相手方がどういう男性かというと、『彼女と同い年位で、かつ彼女の希望する金額が払える普通の男』としか言いようがない。
 埼玉の田舎で普通にスーパーのレジ打ちをしている女性にも、月5万くらいで愛人契約をするオッサンはいる。そのオッサンがどんな仕事かというと、言うほど金持ちでもなく、年収も高くない。毎月の小遣いのうち5万円を、風俗に使うか、愛人契約に使うかだけの問題に過ぎない。

 美女は美男子と付き合うし、不細工は不細工同士で付き合う。ワリキリをしている中高年女性も、その人に価値を見出す人と付き合う。それだけのシンプルな話です。
 買う男性も、本当は芸能人で言えば佐々木希のような若くて可愛い女性を相手にしたいかもしれない。でも自分の年齢や容姿、年収では佐々木希は無理。若い女も無理。可愛い女も無理。ただの女は…いける。女だったらとりあえずいける。年齢で考えると、35歳未満は無理、75歳以上も無理…という風に選択肢を一つ一つ潰していって、売る側・買う側双方の利益の合致するポイントが、例えば『55歳の男性が、テレクラで売春している同い年の女性と愛人契約』という結果に表れるわけです」

 売る側の女性も買う側の男性も、自分のスペックや商品価値を冷静かつ客観的に判断している。言うなればフリーランスの契約の世界なので、「2回戦だったらプラス5千円」「二回目以降だったら1万円でいいよ」など、支払える金額、提供できるプレイやサービスの内容も事前にお互いで確認する。
 鈴木さんは20代後半だが、テレクラでは「若すぎる」という理由で、あるいは冷やかしや警察だと疑われて、女性から断られることもあるという。「40歳未満の男性とは会わないようにしているから」と言われたこともあった。年齢を偽って30代後半と名乗ることによって、ようやく女性と会えるようになったこともあった。

 売買春の世界は、実は結婚や恋愛と同じように、単純な欲望だけではなく、お互いの打算や妥協によって動いている。「極めて合理的なロジックで動いている世界だが、それが外部に伝わっていない」と鈴木さんは言う。
 売買春を語る際、多くの書き手は売る女性や買う男性に何らかの「物語」を見出し、活字化する。読者もまたそういった「物語」を読みたがる。書き手はあくまで「物語」好きな読者に対する商品としてルポやインタビューを編集し、提供しているだけだ。
『裏モノ』のワリキリ特集の記事は「物語」ではなく「カタログ」として読まれており、基本的に不必要な物語や文脈は描かれない。活字と現場との間にはかくも大きな乖離がある。
「見えない買春の現場 『JKビジネス』のリアル」より構成)

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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  • 2017.02.09