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改めて問う。「私たちは『買われた』展」に意味はあったのか?

見えない買春の現場 「JKビジネス」のリアル 第1回

■児童ポルノ事件全体の41・5%は少女の「自撮り」が原因

「私たちは『買われた』展」は、少女たちの置かれていた過酷な環境を展示し、来場者の感情に訴えかけるだけで、「こうすれば少女たちが救われる」という処方箋を提示することは一切行っていない。貧困報道に関する反省的な議論が行われている昨今、今更こうした「貧困ポルノ」を羅列するだけの企画展に何の意味があるのか、という批判は免れ得ない。

 一方で、現実的な問題として、売買春の世界で生きる未成年の少女に対して、実効性のある支援を届けることは極めて困難であることも事実だ。

 厚生労働省は2016年、全国の児童相談所に対して、2015年4月から9月までに対応した児童買春・児童ポルノの被害状況を尋ねる調査を行った(児童福祉司約2300人が回答)。

 本調査によると、被害者266人のうち、9割超が女子。被害者の約8割が中高生の年齢に当たる13~18歳だった。家庭環境・課題(複数回答)については、「ひとり親家庭」が36%、「保護者の心身が不安定」「保護者が無関心」がそれぞれ27%、「経済的困難」は24%だった。「親子関係が不調」「家出や無断外泊の経験がある」という少女も多かった。

 そして、被害者の約3分の1に知的障害や発達障害などの症状があった。障害のある少女は、そもそも自分が被害に遭っているという認識が薄いため、児童買春などの事件に巻き込まれやすい傾向がある。家庭・学校・福祉から疎外された彼女たちは、見えにくく・分かりにくい存在であるだけでなく、自傷・他害行為=自分自身や他人を傷つけたり、何らかの迷惑・犯罪行為をしてしまう可能性が少なくない。

 支援者に対して攻撃的・挑発的な態度を取ったり、拒絶や虚言を繰り返したり、わざと相手を怒らせるような「試し行動」を取ったりする。個人の善意や本人の自助努力だけではどうしようもなく、児童福祉・司法・医療などの専門職が領域横断的なチームを作って長期継続的に支援する必要があるが、それでもなおうまく行かない場合はいくらでもある。

 そして世間のほとんどの人は、残念ながら売春をする少女には興味が無いし、積極的に関わりたいとも思っていない。いくら「彼女たちの現状を知ってほしい」と叫んでも、彼女たちの抱える複雑な背景をそのまま理解できる人・理解したい人はほとんどいない。

 売春に乗り出す少女たちの大半が、悪い大人たちによって「買われた」存在であれば話は単純なのだが、現実はそうではない。決して少なくない割合で、彼女たちは自らの意思で「売っている」=相手を探して積極的に売春の世界に参入してくる(それゆえに警察に発見・補導される)。

 2016年10月、元小学校教諭で、児童・生徒や保護者・教職員向けにネットの性被害・児童ポルノ根絶の啓発講演会を行っていた教育コンサルタント会社社長の男性(35歳)が、都内の中学3年生の女子に現金4万円を払ってわいせつな行為をした疑いで逮捕され、各種メディアで大きく報道された。行為の後、少女が「約束した金を払ってくれず、逃げられた」と110番通報したことで事件が発覚したという。このように、買春した男性側が代金を支払わないことで少女側に被害意識が生じて、そこから通報に至るケースは一定数存在する。

 また2015年に児童ポルノ事件の被害者として特定された18歳未満の子ども(905人)のうち、「自撮り」による被害者は全体の41・5%(376人)を占めている。すなわち、少女たちが興味本位で自らの裸や性器をスマホで撮影し、男性から求められるままに送信したり、注目を浴びる快感を味わうために自発的にネット上に公開している現実がある。

 そうした事実をありのままに提示してしまっては、かえって「どう考えても自己責任だろう」「少女自身が共犯者じゃないか」と批判され、攻撃の的になってしまう。少女が「買われた」現実よりも、少女が自らの意思で積極的に「売っている」現実の方が、多くの人にとっては見たくない現実なのかもしれない。

「見えない買春の現場 『JKビジネス』のリアル」より構成)

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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